私は「うつ依存症」の女

2003/06/02 松竹試写室
クリスティーナ・リッチがウツ病で情緒不安定な女子大生を熱演。
母親役のジェシカ・ラングが素晴らしい芝居を見せる。by K. Hattori

 エリザベス・ワーツェルの同名自伝小説を、クリスティーナ・リッチ主演で映画化した青春ドラマ。物語はヒロインのリジー(エリザベス)が、名門ハーバード大学に入学するところから始まる。幼い頃に両親が離婚して母娘ふたりきりの家庭に育ったリジーは、思春期ごろから自傷や引きこもりなどのウツ症状に悩まされてきた。実家を離れて大学に通うことが、こうした生活から抜け出すチャンスになるのではないかと母親は期待する。大学生になったリジーはその期待に応えるように、ルームメイトや同級生たちともすぐ仲良くなる。文才にはますます磨きがかかり、ローリング・ストーン誌から記事を依頼されるまでになった。すべてが順調すぎるほど順調だ。しかしその順調さは、やがて襲ってくるウツの前触れにすぎなかった。

 リジーは突然、文章が書けなくなる。書いても書いても自分の書いたものに満足できず、すべての原稿を破り捨てたくなる。不眠不休で原稿を書き続け、それでも原稿は完成しない。大きな不安感がリジーを包み込んで離さない。何かしなくてはと思っても、まるで何も手に付かないのだ。情緒不安定になり、周囲に当り散らすリジー。めまぐるしく変化していくソウ状態とウツ状態の合間で、嵐の中の小船のようにきりきり舞いしながら、リジーは友人を、恋人を、母を、父を、祖父母を、誰彼構わず傷つけてしまう。

 出演者が豪華だ。ヒロインの母親役にアカデミー女優のジェシカ・ラング。かかりつけの精神科医にアン・ヘッシュ。大学でのボーイフレンド役には、『ベルベット・ゴールドマイン』のジョナサン・リース・マイヤーズと、『アメリカン・パイ』のジェイソン・ビッグス。ルームメイトのルビー役に、『ミー・ウィズアウト・ユー』のミッシェル・ウィリアムス。ミュージシャンのルー・リードが、本人役でゲスト出演している。監督はノルウェイで『インソムニア』のオリジナル版『不眠症』を撮ったエーリク・ショルビャルグ。これだけ個性的な顔ぶれが集まった映画を、全体にひとつのトーンでまとめ上げた監督の力量はたいしたもの。『不眠症』は未見だが、これはなかなかの実力だと思う。
 
 物語はヒロインのナレーションで綴られるのだが、ナレーションで語られる心情とヒロインの実際の行動の距離感が絶妙だ。情緒不安定で周囲を傷つけてばかりいるヒロインの言動を、ナレーションが時に弁護し、あるいは解説し、場合によっては批判する。ナレーションはヒロインに寄り添う第三者であり、これがあることで観客はヒロインの目茶苦茶な行動に同情したり共感したりすることができる。このナレーションはウディ・アレン映画における、主人公のぼやきみたいなものだ。
 
 登場人物の中ではジェシカ・ラングが絶品。教育熱心で自己中心的なジューイッシュ・マザーをダイナミックに演じ、それでいて怪物のような人物にはなっていないのがさすが。

(原題:PROZAC NATION)

2003年8月公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給・宣伝:アートポート
(2001年|1時間39分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.utsu-movie.jp/

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DVD:私は「うつ依存症」の女
原作:私は「うつ依存症」の女
原作洋書:PROZAC NATION (Elizabeth Wurtzel)
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