名もなきアフリカの地で

2003/05/27 ギャガ試写室
ナチスから逃れてアフリカに渡ったユダヤ人一家にとっての戦争。
『ビヨンド・サイレンス』のカロリーヌ・リンク監督作。by K. Hattori

 『ビヨンド・サイレンス』や『点子ちゃんとアントン』のカロリーヌ・リンク監督最新作であり、今年のアカデミー賞で外国語映画賞を受賞した作品。物語の舞台は1930年代末から40年代後半にかけてのアフリカ。ユダヤ系のウォルター・レドリッヒはナチスの対ユダヤ政策によって弁護士の職から追放されると、ケニアの農場で雇われ労働者として新しい生活を始めていた。間もなくケニアに呼び寄せられた妻イエッテルは、およそ文明というものから隔絶されたアフリカの生活にまったく馴染めずドイツを懐かしむ。だが幼い娘レギーナは、現地の料理人オウアとすぐに仲良くなり、アフリカでの生活に溶け込んでいくのだった……。

 ナチスのユダヤ人迫害を、海外に亡命したユダヤ人家族の視点から描いた戦争映画だ。取るものもとりあえずドイツを脱出したイエッテルが、アフリカ到着直後に「ドイツに帰りたい!」とヒステリーを起こす場面が新鮮。ナチス占領下のヨーロッパで、ユダヤ人がどれほどひどい目にあわされたかを、我々は既に歴史として知っている。でも当時のユダヤ人は、まさか自分たちが全員殺されてしまうなどと思ってもいなかった。苦しいのは数年のこと。迫害の嵐が通り過ぎるのを待てば、そのあとにはまた元通りの生活が戻ってくるというのが、ヨーロッパで数百年に渡って迫害されてきたユダヤ人たちの「常識」だった。だからこそ、イエッテルはドイツに帰りたいと願う。ドイツに帰れば家族や友人たちがいる。仕事はなくても、数年なら裕福な資産で食べて行けるだろう。それなのになぜ、わざわざアフリカに……。イエッテルは夫のウォルターの臆病さと、弁護士から農夫になったふがいなさを、そしてこんな男と結婚してしまった自分自身の運命を憎む。

 バラバラになった家族が再びひとつになるまでの物語だが、それが家族の再会から始まるという皮肉。アフリカとドイツに離れ離れに暮らしていた時は、互いに相手を求め合っていたウォルターとイエッテルが、アフリカで再会をはたした途端に心が離れていってしまう。それでも戦争があるうちは、家族が肩寄せ合って暮らしていくしかない。ところが戦争が終わって平和がやってくると、いよいよ家族は崩壊の危機に陥ってしまう。外的な状況と家族の内的な状況が、まるで正反対になっているのだ。これが物語にダイナミズムを生み出す。「戦争=家族の危機」「平和=家族円満」という方程式が、ここではまったく成り立たない。人間とは何と不思議なものだろうか。

 『点子ちゃんとアントン』に母親役で出演していたユリアーネ・ケーラーが、イエッテル役を好演。同じユダヤ系ドイツ人のジュスキントを演じたマティアス・ハービッヒも上手い。だが一番存在感があるのは、オウア役のシデーデ・オンユーロだろう。レドリッヒ一家にとって、オウアこそがアフリカを象徴するキャラクターなのだ。

(原題:Nirgendwo in Afrika)

2003年夏公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ギャガコミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ海、キネティック
(2001年|2時間21分|ドイツ)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:名もなきアフリカの地で
サントラCD:名もなきアフリカの地で
サントラCD:Nowhere in Africa
原作:名もなきアフリカの地で
関連DVD:カロリーヌ・リンク監督

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