クローン・オブ・エイダ

2003/05/14 シネカノン試写室
世界初のプログラマー、エイダ・バイロンの悲劇の生涯を描く。
現代との対比という仕掛けは余計だったかも。by K. Hattori

 ビデオ・アーティストとして活動してきた、リン・ハーシュマン・リーソンの映画監督デビュー作。'90年代のサンフランシスコで、VR技術を使って過去の人物との交信実験をしていたエミーは、19世紀のイギリス人女性エイダとコンタクトを取ることに成功する。彼女は詩人バイロンの娘であり、チャールズ・バベッジが開発した世界初の機械式計算機“ディファレンス・エンジン”の共同研究者。世界初のプログラマーとして、コンピュータの歴史に名を残している人物だった……。

 物語そのものはSF仕立て。コンピュータ技術を使って過去の人間とコミュニケートするという、タイムマシン・ジャンルの変種と考えられる。ただしこのタイムマシン(時空を超えて会話することができる通信機)がどういった理屈で動くものなのかは、説明されてもさっぱりわからない。対象となる人物についてのありとあらゆるデータをコンピュータにインプットし、コンピュータの中で生きる人工生命体として人物を再現しているように見えるのだが、映画を観ているとどうやらそれだけではないようにも思える。どうやらこのあたりの理屈については、映画を作っている側はあまり興味がないようだ。

 ここで描かれているのは、エイダ・オーガスタ・ラブレス(エイダ・バイロン・キング)というひとりの女性がどう生きたかという物語。女性の生き方が大きく制限されていた19世紀という時代に、有り余る才能を持って科学技術史の1ページに名を連ねることになったエイダ。多くの男性たちと友情以上の関係を持ち、ギャンブルに資産をつぎ込み、アヘンに溺れ、最後は36歳という若さで子宮ガンで亡くなったエイダ。周囲の男性たちの無理解や、彼女の才能を食い物にしようとする野心。彼女に平凡な生き方を強いようとする母親との確執。この映画の大半は、エイダのミニ伝記になっているのだ。

 エイダの人生はとても幸福とは言えないものだった。だがそれは19世紀という時代による制約だとも言い切れない。この映画では狂言回しであるエミーが恋人に研究を邪魔されたり、子供を生むことを強く期待されるというエピソードを通して、エイダの悲劇が時代を超えた「女性の悲劇」であることを描き出す。コンピュータの生みの母となったエイダと、コンピュータの研究者であるエミーが、コンピュータを介してつながり合う。

 こうして過去と現在を重ね合わせることが、映画作品として成功しているとはとても思えない。特殊な装置を使って過去を覗き見るという設定自体は、子供向けの歴史教育番組などによくあるではないか。教育番組になくてこの映画にあるのは、エイダのDNA情報を使ってクローンを作るというアイデアだ。ここで過去と現在の情報のやり取りは、DNAや記憶という情報を通して肉体的なものへと変換される。このシーンをもっとふくらませると、面白くなっただろうに。

(原題:Conceiving Ada)

2003年7月公開予定 新宿武蔵野館(レイト)
配給:アップリンク
(1997年|1時間25分|アメリカ、ドイツ)
ホームページ:
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DVD:クローン・オブ・エイダ
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