二重スパイ

2003/05/02 GAGA試写室
韓国に偽装亡命した北朝鮮スパイが接触した現地工作員は……。
冷戦末期の'80年代を舞台にした本格スパイサスペンス。by K. Hattori

 『シュリ』や『JSA』に続く、朝鮮半島の南北分断をモチーフにしたサスペンスドラマ。主演は『シュリ』のハン・ソッキュ。相手役に『エンジェル・スノー』のコ・ソヨン。監督のキム・ヒョンジョンはこれが長編デビュー作だという。

 1980年。東ベルリン経由で西側に脱出した北朝鮮軍人イム・ビョンホは、韓国の国家安全企画部で厳しい取調べを受けた後、安企部のスパイ養成教官として働き始める。だが彼は、北朝鮮が送り込んだスパイだった。2年以上の月日が流れ、イムは安企部の中でも秘密資料を扱える重要部署に転任になる。そしていよいよ、韓国内に潜伏していた北朝鮮の工作員がイムに接触する瞬間がやってきた……。

 オープニングタイトルでは金日成の前を行進する北朝鮮の大部隊が登場するが、そこに流れる行進曲はロシア語で、タイトルの文字もキリル文字からハングル文字に変容していく。ここで語られているのは、当時の北朝鮮軍とはソ連軍の別働隊であり、朝鮮半島こそ東西冷戦の最前線だったという事実だ。「自由な韓国」を求めて亡命したというイムに対して安企部の男たちは、「お前も今の韓国に自由がないことなど承知しているはずだ」と言い放つ。戦時体制の国に自由は存在しない。イムが亡命した80年には光州事件が起きているし、夜間通行禁止令も生きていた。'83年にはラングーン事件、'87年には大韓航空機爆破事件が起きるなど、北朝鮮による対南政策は過激化の一途をたどっていた。

 だがそれらはすべて「冷戦」という背景あってのことだと、この映画は訴える。ここでことさら「冷戦」が強調されるのは、「冷戦後の北朝鮮は以前の北朝鮮とは違う」という気分が韓国人の中にあるからだとも思う。'91年にソ連が崩壊して冷戦が終了し、韓国では'98年に誕生した金大中政権が北朝鮮への融和政策(太陽政策)を取っていることで、当面は北朝鮮が韓国を攻撃する危険が去ったと思われている。この映画は「'80年代はひどかったなぁ」と過去を振り返りつつ、現在の韓国と北朝鮮の関係はこれほど悪くないはずだと観客に訴えかけているのだろう。

 スパイ映画としてはかなりの本格派。亡命スパイがまずは徹底して拷問されるとか、四六時中監視がついているスパイにいかにして潜伏工作員が接触するかなど、映画を観ていると細かな描写にいちいち「なるほど!」と思ってしまう。こうしたことが事実なのかどうかは関係ない。映画を観る人に「なるほど!」と思わせることこそが、映画のリアリズムなのだ。ハン・ソッキュが温厚そうなイム主任から、一転して冷酷なエリートスパイの顔に変身するシーンは見もの。

 映画冒頭の偽装亡命シーンから、観客を強く引き付けて離さない迫力。終盤少し話がわかりにくくなるのは、ちょっとだけ残念。『KT』を連想させるエピローグはちょっと長いかも。

(英題:Double Agent)

2003年6月7日公開予定 全国東映系
配給:ギャガ・ヒューマックス、東映
(2003年|2時間3分|韓国)
ホームページ:
http://www.2-spy.jp/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:二重スパイ
ノベライズ:二重スパイ
関連DVD:キム・ヒョンジョン監督
関連DVD:ハン・ソッキュ
関連DVD:コ・ソヨン
関連図書:北朝鮮スパイ
関連図書:北朝鮮工作員

ホームページ

ホームページへ