ブロンドと柩の謎

2003/04/28 GAGA試写室
喜劇王チャップリンと新聞王ハーストを巻き込んだオネイダ号事件。
その謎の背後にうごめく人間たちの欲望を描く。by K. Hattori

 ハリウッド映画史のミステリーとして、今も語り継がれている1924年の「オネイダ号事件」。西部劇映画のプロデューサーとして知られるトーマス・インスが、ロサンゼルスからサンディエゴに向かう客船オネイダ号の中で危篤状態になり、数日後に亡くなったのだ。死因は心臓発作と発表されたが、じつは船のオーナーだった新聞王ハーストに射殺されたのではないかという説がある。ハーストと言えば『市民ケーン』のモデルにもなったメディア王。船には彼の愛人だったマリオン・デイヴィスの他、喜劇俳優のチャップリンなど十数人の招待客が乗っていたが、奇妙なことに彼らはインスの死について硬く口を閉じたままだった。いったいその時、船の中で何が起きたのか?

 この事件を大胆な仮説をもとに再現したのは、『ラスト・ショー』や『ペーパー・ムーン』など、時代物を得意とするピーター・ボグダノヴィッチ監督。ヒロインのマリオン・デイヴィスをキルスティン・ダンストが演じ、悪名高い新聞王ハーストをエドワード・ハーマン、喜劇王チャップリンをエディ・イザード、哀れなトマス・インスをケアリー・エルウェスが演じている。キャスティングは本人に似ているかどうかがポイントだったようで、ハーマンはハーストに似ているし、イザードはチャップリンにそっくりな風貌に見える。この映画でもっとも本人に似ていないのは、マリオン役のダンストだと思う。

 ハーストの後ろ盾で有名になったマリオンは、『市民ケーン』の影響もあって才能のない大根女優だと思われがちだ。だがものの本によれば、彼女にはは喜劇女優としてのずば抜けた才能があったのだという。写真を見るとかなりの美人でもある。しかし彼女のパトロンになったハーストは、彼女をシリアスな本格女優に育てようとした。彼女のために製作会社を作り、シリアスな作品に次々主演させて、かえって彼女のコメディエンヌとしての才能を潰してしまった。この映画ではそのあたりの事情が、じつに巧みに描かれている。

 マリオンは金のためにハーストと付き合っていたわけではない。ハーストは本当にマリオンを愛し、マリオンはその愛に見合う女になろうとしただけだろう。(彼女はハーストが破産した後も彼から離れることはなかった。)こうしたマリオンの気持ちも、映画の中ではきちんと説明されているのが秀逸。ハーストの愛や信頼に応えようとするマリオンの気持ちは、そのハーストによって自分のコメディ女優としての才能が摘み取られているという事実との間で葛藤を生み出す。そこに付けつけ入るのがチャップリンだ。

 劇中のチャップリンは、人格が破綻しかけた天才芸術家として描かれる。彼がマリオンを口説く理由は、主演女優リタ・グレイの妊娠で暗礁に乗り上げた『黄金狂時代』を救うため、是が非でも代役を探さなければならなったからだ。そこがもう少しハッキリ描かれるとよかったかも。

(原題:The Cat's Meow)

2003年初夏公開予定 シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ海、ビー・ウィング
(2001年|1時間54分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:ブロンドと柩の謎
サントラCD:The Cat's Meow
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