エニグマ

2003/04/21 松竹試写室
第二次大戦中のドイツの暗号を、イギリスはいかにして解読したか?
史実をもとにしたサスペンスだが話がごちゃついてる。by K. Hattori

 エニグマとは「謎」という意味。この映画では第二次大戦中にドイツ軍が使っていた暗号機のことを指す。連合軍はこの暗号機に散々苦しめられたが、イギリスは幾つか入手した本物のエニグマと暗号表、それに国中からかき集めた頭脳集団と最新型の計算機によって、この暗号を解読することに成功した。エニグマ争奪をめぐるドイツとの攻防については『U-571』という映画も作られているが、今回の映画はそれ以降の暗号解読に焦点を当てている。主人公の数学者トム・ジェリコのモデルになっているのは、暗号解読用の計算機コロッサスを開発した数学者アラン・チューリングだろう。チューリングは戦後に自殺した悲劇の天才で、彼の栄光と挫折の生涯は『掟/ブレイキング・ザ・コード』というテレビ映画(原作は戯曲)にもなっている。

 ロバート・ハリスの小説「暗号機エニグマへの挑戦」を、『恋におちたシェイクスピア』のトム・ストッパードが脚色し、『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』や『イナフ』のマイケル・アプテッドが監督している。主演は『M:I-2』のダグレイ・スコットとケイト・ウィンスレット。ミック・ジャガーの初製作映画としても話題になっている。顔ぶれを見る限りそれほど悪い映画になりようがないようにも思えるのだが、印象はひどくとっつきにくい。これはまず第1に脚本の問題であり、次にキャスティングの問題だろう。

 主人公のトムは失恋が原因で神経衰弱になったという設定で、映画に登場した瞬間から薄ぼんやりと虚ろな目をしている。自分を振った女性の部屋に黙って入り込み、本人の留守中に部屋をあさったりもする。これじゃまるで、たちの悪いストーカーじゃないか! こんな主人公に、観客が好感を持つだろうか? トムをここまで狂わせたクレアという元恋人が、痩せっぽちでギスギスした感じの美女というのもいただけない。この役は映画の中で最大の謎になる重要なものなんだから、一目見ただけで誰もが魅了される、健康なセックスアピールの持ち主が必要なのだ。演じているサフロン・バロウズには申し訳ないけれど、この映画は彼女とケイト・ウィンスレットの役を入れ替えたほうが面白くなっただろう。ウィンスレットが演じているヘクターは、美人だけど色気がないクロスワードパズルの天才という設定だから、バロウズにも打ってつけだったと思う。

 映画は幾つかのエピソードが同時進行していくのだが、それらが途中でブツブツ途切れるようなところがある。クレアの失踪。ドイツの新しい暗号。盗み出された通信が伝えるもの。そこに主人公トムの心の傷の修復というストーリーがからむのだが、この映画の中ではどれもが中途半端なまま放り出されているような気がする。ミステリー映画に不可欠な「なるほど、そうだったのか!」という、すべての謎が解決してそれまでの疑問が氷解する快感が味わえない。

(原題:ENIGMA)

2003年5月17日公開予定 渋谷東急3他・全国松竹東急系
配給:松竹 宣伝:シナジー
(2001年|1時間59分|イギリス)
ホームページ:
http://www.enigma-movie.com/

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DVD:エニグマ
サントラCD:エニグマ |Enigma
原作:暗号機エニグマへの挑戦(ロバート・ハリス)
原作洋書:Enigma (Robert Harris)
関連書籍:暗号攻防史(ルドルフ・キッペンハーン)
関連書籍:暗号戦争(吉田一彦)
関連書籍:暗号解読(サイモン・シン)
関連書籍:甦るチューリング(星野力)
関連洋書:Alan Turing: The Enigma
関連DVD:U-571 デラックス版
関連DVD:掟/ブレイキング・ザ・コード
関連DVD:マイケル・アプテッド監督
関連DVD:ダグレイ・スコット
関連DVD:ケイト・ウィンスレット
関連DVD:ジェレミー・ノーザム
関連DVD:サフロン・バロウズ

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