のんき大将〈カラー版〉

2003/04/03 映画美学校第1試写室
ジャック・タチの長編デビュー作を残ったフィルムからカラーに復元。
いささか中途半端なカラー化という気もするなぁ。by K. Hattori

 1949年にジャック・タチの長編第1作として製作された『のんき大将脱線の巻』は、当時開発中のトムソンカラーで撮影されていたが、カラー撮影が失敗したときのために念のためモノクロフィルムでも撮影されていた。最終的にこのカラー方式はプリント技術が確立できず、『のんき大将』はモノクロ映画として公開され、この映画は大評判になった。だがタチ本人はこの映画のカラー化に執着があったらしく、64年には追加撮影と部分彩色した再編集版を発表している。タチは82年に亡くなっているが、その後、娘のソフィーが撮影済みのカラーフィルムを発掘し、監督が本来意図したカラー版の『のんき大将』を95年に復元。それがこの『のんき大将〈カラー版〉』なのだという。日本でもかつて『新のんき大将』というタイトルで公開されたことがある。

 ところでこの映画、オプチカル処理で文字を入れたオープニングの鮮やかさには驚いたが、その後はほとんどモノクロに淡く色が付着している程度になる。カラー撮影フィルムの復元版と言いながら、そのじつほとんどのシーンでモノクロフィルムのカラライゼーションになっているのではなかろうか。まぁこの映画の場合はそれでもいいのだろう。モノクロ映画を着色することで「オリジナルの芸術性が破壊される」と言う人もいるけれど、『のんき大将』は監督がもともとカラー映画に仕上げたかったのに、技術的な問題でそれができなかっただけの話。これが復元であろうとカラライズであろうと、カラー版こそがジャック・タチの本来の意図だったのなら、監督の意図に沿って復元するのも悪くない。

 ただしこのカラー版は、着色の質があまりよくないのが残念。現代の技術を使えば、モノクロに淡く色がのっているような物ではなく、鮮やかなテクニカラーのような色調にだって仕上げられるはず。『ぼくの伯父さん』以降のカラー作品を参考にしながら、もっと色鮮やかな『のんき大将』を作ってくれたほうがいいんじゃないだろうか。この〈カラー版〉は、あまりにも貧相だ。ところどころで色がすっぽ抜けになっている。これならモノクロのままの方が、かえってスッキリ観られるんじゃないだろうか。

 映画の主人公は郵便配達夫のフランソワ。村にやってきた祭りの出し物でアメリカのニュース映画を観たフランソワは、そこに登場するアメリカの郵便配達夫の姿にびっくり仰天。アメリカなんかに負けられるかと、大張り切りで自転車をぶっ飛ばすのだが……。

 この日はタチが初めて監督した『郵便配達の学校』も観たのだが、『のんき大将』はこの短編を長編に拡大したものなのだ。登場するギャグなどもほとんど同じ。僕はギャグが凝縮している短編版のほうが、完成度が高いようにも思った。もちろん長編オリジナルのギャグも多いし、ヤギを連れたおばあさんの人間観察や居酒屋のオヤジなど、脇のキャラクターにも面白味がある。

(原題:Jour de fete le film couleur)

2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ、テアトル梅田
配給:ザジフィルムズ
(1949年・1995年|1時間20分|フランス)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/

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