黒水仙

2003/04/01 映画美学校第2試写室
朝鮮戦争時代の捕虜が50年ぶりに釈放されたとき事件が起きる。
韓国版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』。by K. Hattori

 ソウルで起きた1件の殺人事件。その捜査を担当するオ刑事は、つい最近50年ぶりに刑務所から釈放されたファン・ソクという人物にたどり着く。被害者ダルスは朝鮮戦争時代に脱走捕虜を捕える仕事をしており、ソクも彼に逮捕されていたのだ。北朝鮮のスパイとして捕えられ、獄中で一度たりとも転向の意思を見せなかったソクが、自分を逮捕した男に復讐したとしても不思議はなさそうに見える。だが捜査を進めるうちに見えてきたのは、事件の背後にある50年前の悲劇だった。現代のソウルに、同胞同士が傷つけあった朝鮮戦争時代の悪夢がよみがえる。

 原作は70年代に韓国で発表されたベストセラー小説「最後の証人」。80年にも一度映画化され、今回が2度目の映画化だという。監督はかつて韓国のスピルバーグと呼ばれたペ・チャンホ。物語の狂言回しになるオ刑事を演じるのは、『イルマーレ』『ラスト・プレゼント』などの人気俳優イ・ジョンジェ。獄中で半世紀を過ごしてきたファン・ソクを、ベテランの人気俳優アン・ソンギが演じている。ひとつの殺人事件から、数十年前の悲劇が浮かび上がってくるというストーリーは『砂の器』を連想させ、老人になった男たちが数十年前の出来事の落とし前をつけるというストーリーは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を連想させる。だがこの映画は、そうした名作名画に遠く及ばない。そもそも脚本段階で、話がずいぶんと未整理なのだ。

 物語の中ではアン・ソンギ演じるソクと、彼が朝鮮戦争時代に行動を共にしていたソン・ジヘ(演じるのはイ・ミヨン)のラブストーリーが軸になるはずなのだが、このふたりの関係がまるで弱々しい。また小学生時代に一緒に写真に写っていた3人の少年たちの関係が、映画を観ていてもまるでわからなかった。これは少年時代に親友だった3人が、戦争中に互いに立場を変えて裏切りあったということなのかな。だとしたら、ジヘ、ソク、ダルス、ドンジェの関係は、映画の前半できちんと強調しておく必要があるように思う。

 オ刑事の扱いも中途半端でもったいない。捜査線上に浮上するソクやジヘは、戦争中に朝鮮労働党のために働いていたのだ。韓国育ちのオ刑事は、政情不安定な時代とはいえ北朝鮮のために働いていた彼らにたいする軽蔑の気持ちがある。それに対して殺されたダルスは、脱走捕虜の逮捕を任務とする一種の警官みたいなもので、いわば自分の大先輩にあたる。しかも事件の捜査中に、犯人は元警察署長を殺し、自分の上司であるソ刑事も射殺している。こうして犯人とまったく別の立場に立っていたオ刑事が、事件の真相を知って犯人に同情していくというのがこの話の肝だと思うのだけれど……。

 50年前と現代を同じ俳優で通した演出には無理があると思う。わかりやすさを狙ったのかもしれないが、かえって年齢不詳になって不自然だ。

(英題:The Last Witness)

2003年5月公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:GAGAアジアグループ 宣伝:LIBERO
(2001年|1時間43分|韓国)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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