アバウト・シュミット

2003/03/19 GAGA試写室
ジャック・ニコルソンが平凡すぎる男の平凡すぎるがゆえの悲哀を好演。
ダーモット・マルロニーの髪型には驚いたなぁ……。by K. Hattori

 アメリカのほぼど真ん中にあるネブラスカ州オマハ。長年勤めた保険会社を定年退職したウォーレン・シュミットの前には、悠々自適の引退生活が待っているはずだった。連れ添って42年になる妻ヘレンと、離れて暮らす一人娘のジーニーが彼の家族。平凡すぎるほど平凡な人生だが、その平凡さの中に幸せを見出すのがシュミットのような男にはふさわしいのかもしれない。そんな諦めにも似た気分で、いざ第二の人生を踏み出そうとした矢先、妻のヘレンはあっけなく急死してしまうのだ。こうなったら娘を頼るしかない! だが娘は自分が結婚することに夢中で、孤独な父親の気持ちなど少しも理解しようとはしない。行き場を失ったシュミットは、キャンピングカーに乗ってあてのない旅に出るのだが……。

 主演はジャック・ニコルソン。あくの強いキャラクターを演じることの多かった彼だが、今回演じているのは定年退職して家の中で濡れ落ち葉状態になっている冴えない男。自分としては会社の成長にそれなりに貢献し、業務遂行になくてはならない人間だったはずだという自負がある。だが退職後に元の職場を訪ねてみれば、そこでは自分の後釜に座った男が何の不便もなく仕事をこなしている姿がある。自分が積み重ねてきた仕事が、駐車場の片隅でゴミ扱いされているのを見たとき、シュミットは自分もまたゴミのように会社からお払い箱になったに過ぎないのだと悟る。

 こうした定年退職者の悲哀はしばしば耳にすることがあるが、こうして映画の中の1エピソードとして見せられると身につまされてしまう。普通は「じゃあ第二の人生は趣味と家庭に」となるのだろうが、シュミットにはそれすらない。監督のアレクサンダー・ペインは、この映画の脚本を執筆中に改めて黒澤明の『生きる』を見直したそうだ。木っ端仕事に埋もれて生きてきた男が家族からも見捨てられ、自分とわずかばかりのかかわりがある若者にすがるという展開は、確かに『生きる』に一脈通じるものがあるかもしれない。

 映画の大半は、主人公がキャンピングカーに乗ってあちこちを移動することに費やされている。相棒のないたったひとりのロードムービーだ。映画を観ている方はこうした展開になると、「きっと何か印象的な出会いがあって、それがこの男の行き方を根底から変えてしまうに違いない」などと、物語の先読みをすることになる。ところがこのシュミット氏、せっかく出会った親切な人たちとの関係はぶち壊すし、何事か悟ったと思えば、それは「娘の結婚を阻止しなければ!」というきわめてネガティブなものだったりする。旅をしようが何をしようが、結局は自分の生きてきた枠の中でしか行動できないのがシュミットなのだ。そのあまりの凡人ぶりが、かえって映画の中では新鮮に思える。手紙の朗読という形で、主人公のナレーションを効果的に使った構成もうまい!

(原題:About Schmidt)

2003年5月公開予定 みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2002年|2時間5分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.about-s.jp/

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DVD:アバウト・シュミット
サントラCD:About Schmidt
原作:アバウト・シュミット
原作洋書:About Schmidt (Louis Begley)
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