風の絨毯

2003/02/27 SPE試写室
1枚のペルシャ絨毯誕生までを描いた日本とイランの合作映画。
絨毯には人々の気持ちが一緒に織り込まれている。by K. Hattori

 『テヘラン悪ガキ日記』のカマル・タブリーズィー監督が作った、日本とイランの合作映画。飛騨高山の祭に使う山車のため、オリジナルのペルシャ絨毯作りを一任された永井誠は、妻・絹江のデザインをもとにした絨毯をイランの工場に発注する。だがその完成を待たず、絹江は突然の交通事故死。誠は妻の遺志を引き継ぐため、娘のさくらを連れてイランに絨毯を受け取りに行く。ところが工場長のうっかりミスで、絨毯にはまだまるで手が着けられていないと言うのだ。今から絨毯を織っていたのでは2,3ヶ月はかかり、とても祭には間に合わない。発注者に対する責任からも、死んだ妻のためにも、出来合いの絨毯で代用するなど絶対にできない。途方に暮れる誠の姿を見て、工場の人たちは期日までに絨毯を完成させようと一肌脱ぐことに決める。

 永井誠役に榎木孝明。妻の絹江役には、本作のアソシエイト・プロデューサーも兼ねている工藤夕貴。娘のさくらを演じているのは柳生美結。誠の友人であるお調子者のイラン人アクバルをレザ・キアニアンが演じ、さくらに淡い想いを寄せるルーズベ少年をファルボー・アフマジューが演じている。なお劇中で三國連太郎が演じている中田金太という人は、伝統の祭山車を復元するのに尽力した実在の人物だ。

 この映画にはいくつかのドラマが織り込まれている。まず第1に、母を失った少女がイランで人々の温もりに触れながら、少しずつ心を癒していく物語。まったく無表情だったさくらが、やがて明るい笑顔を取り戻すまでを自然な流れの中で描いている。特別な事件やきっかけがあるのではなく、小さな出来事が幾つも積み重なって、少女の心がほどけていくのだ。もうひとつのドラマは、父親と娘の間で一度途切れた交流が、再び始まるというお話だ。仕事へのプレッシャーから、あまり家族を顧みなかった誠。彼は妻が亡くなったことで、より一層仕事へとのめり込んでいく。しかしイランで味わう大きな失望と挫折。真っ青な顔で「もうダメだ」とつぶやき、絨毯作りが始まってからも巻き尺とソロバンを手にして「間に合わない」「これじゃ無理だ」と言い続ける誠の視界に、娘さくらの姿はまるで入っていない。絨毯が完成間近になった夜、さくらが「おとうさんお馬さんになって」と甘えるシーンは、父と娘がこれからふたりで生きていくことを決意する場面とも言えるだろう。他にもルーズベのさくらへの恋慕や、アクバル夫婦の話など、いくつかのドラマが映画の中で同時進行していく。

 しかしこの映画の一番の主役は、何と言っても織られる絨毯そのものだと思う。大勢の職人たちが一目一目編み込んでいく毛糸が、やがて大きな絨毯になっていく様子。絨毯の中には多くの人の願いが、思いが、喜びが、悲しみが、すべて織り込まれている。絨毯はそうした気持ちを全部織り込んで、日本へと渡ってくるのだ。

(原題:The Wind Carpet)

2003年初夏公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2002年|1時間53分|日本、イラン)
ホームページ:
http://www.kazeju.jp/

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