AIKI

2003/01/22 テアトル新宿
下半身マヒのデンマーク人合気柔術家をモデルにした青春映画。
悪い映画じゃない。好感が持てる。でも弱点も多い。by K. Hattori

 バイク事故で下半身マヒになった男が、日本の古武道に出会って黒帯の有段者になる話。デンマークの合気柔術家オーレ・キングストン・イェンセン氏の実話をもとに、最近は今村昌平作品の脚本家として活躍している天願大介が脚本を書き下ろして監督した青春映画だ。主演は加藤晴彦。劇中に登場する大東流合気柔術は実在する日本最大の古武道流派で、映画の中で石橋凌が演じている師匠のモデルになったのは、大東流合気柔術六方会を主宰する岡本正剛師範。

 もともと天願監督が雑誌でイェンセン氏の紹介記事を見たのをきっかけに、10年ほど前から映画化の企画を温め始めたものだという。天願監督が障害者プロレスを取材したドキュメンタリー映画『無敵のハンディキャップ』は、その取材過程で生まれた副産物だったらしい。こうして実際に障害を持つ人たちに触れて取材した豊富な経験を生かし、今回の『AIKI』もこれまでの日本映画にない新しい障害者像を描いていると思う。最終的に主人公は「障害に負けずに健気に生きていく青年」という社会が期待する障害者像にすっぽりと落ち着いてしまうわけだけれど、そこに至るまでの紆余曲折、試行錯誤、当人だけでなく周囲も巻き込んだ七転八倒の苦しみ、精神的にも肉体的にも荒んでいく生活ぶりなどが、実感を伴ったものとして丁寧に描かれているのだ。

 タイトルの『AIKI』は合気柔術の「合気」だが、その極意は「相手と気を合わせて無力化すること」と劇中で説明されている。相手の力をはね除けるのではなく、まずは受け入れて自分自身と一体化させてしまう。それが「合気」なのだという。相手から逃げない。相手とぶつからない。相手をまず引き入れてしまう。この映画は身体の障害という「相手」を主人公がいかにして受け入れ、「合気」の極意で自分と一体化させていくかを描いた作品なのだ。

 面白い映画だし好感も持てるのだが、この話ならもっと歯ごたえやボリュームのある映画になってもよかったような気がする。例えば僕には、映画前半での主人公の苦悩がよく伝わってこなかった。不良に殴られて「殺してくれ!」と足にすがりつく主人公の気持ちは、頭では理解できても僕の心にズシンと響いてこないのだ。ともさかりえが演じたヒロインのサマ子も、物語に便利なように作られたキャラのように思えて、ひとりの女性像としての魅力に欠ける。

 しかしこの映画で最大の疑問点は、「そもそも大東流合気柔術ってナニモンだ?」と言うことだ。指先ひとつで、大の男がばたばたと投げ飛ばされるなんて本当にあり得るの? 車椅子の男が空手家を投げ飛ばせるって本当ですか? 大東流合気柔術が本当に大男を投げ飛ばせるなら、横綱貴乃花は引退する前に大東流入門を考えるべきだった。野球では桑田が古武術を学んで復活した。貴乃花もその可能性があったのにね。力士のケガに悩む相撲協会もぜひ一考を。

2002年11月30日公開 テアトル新宿、シネ・リーブル池袋、他・全国ロードショー
配給:日活
(2002年|1時間59分|日本)
ホームページ:
http://www.aiki.cc/

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DVD:AIKI
原作:AIKI(天願大介)
主題歌収録CD:ウルフルズ(「愛撫ガッチュー」収録)
関連DVD:天願大介監督
関連DVD:加藤晴彦
関連DVD:ともさかりえ
関連DVD:石橋凌
関連書籍:大東流合気柔術(岡本正剛)
関連書籍:武田惣角と大東流合気柔術
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関連DVD:大東流合気柔術(近藤勝之)
関連書籍:無敵のハンディキャップ(北島行徳)

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