右側に気をつけろ

2002/11/29 映画美学校第1試写室
ゴダール自作自演のドタバタコメディはそれなりに楽しいが……。
個々のシーンに瞬発力はあってもそれが持続しない。by K. Hattori

 前日観た『うまくいってる?』にまったく歯が立たなかったのに、懲りずに向かうゴダール映画の試写。この『右側に気をつけろ』は一応商用作品なので、『うまくいってる?』のようにことさら難解になっているわけではない。しかしこの映画に「わかりやすさ」を求めても無駄で、やっぱりなんだかよくわからない作品だったりするのだけれど……。ゴダールは自分の関心と問題意識の中からしか映画を作れない作家なので、おそらく映画1作目から順を追って、しかもリアルタイムに作者と同じ空気を吸いながら作品を追いかけてきた人以外には理解しにくいのではないだろうか。

 この映画は3つのエピソードが三つ編みになっている。ひとつはゴダール本人が演じる白痴の公爵が、フィルム缶に入ったフィルムをある町まで運んで上映しようとする話。もうひとつはジャック・ヴィルレ(『奇人たちの晩餐会』や『クリクリのいた夏』でお馴染み)演じる男の旅を描いたエピソード。そして3つ目のドラマは、ミュージシャン〈リタ・ミツコ〉のレコーディング風景を撮影したドキュメンタリーだ。これら3つの物語は、例によって例のごとく何の関わりもなく同時進行していき、どこにも接点を持っていない。

 僕などはもうゴダール映画の政治性になどまったく興味がないので、観ているところはゴダール本人が演じる数々のドタバタや、飛行機の中でのどんちゃん騒ぎといった場面ばかり。ゴダール演じる男が車の窓から中に飛び込むシーンで見せる、静から動への鮮やかな転換には「おお!」という驚きがあるし、飛行機の中でひたすらドタバタが繰り返されるシーンでは、頭の中で「スクリューボールコメディ」という言葉がこだましてました。ジャック・ヴィルレ扮する男が、ホテルの部屋で美女とダンスをするシーンも忘れがたい。カットが変わるたびに女性の着ているものが減って行き、ついにヌードになったかと思うと、次のカットでは女性自身まで消えてしまう。なんだか物悲しいシーン。

 いろいろな古典作品からの引用めいた台詞やシーンがあるが、こうした引用手法はもはやゴダール本人によるゴダール映画のパロディにも見えるし、おそらく本人もそれを自覚しながらわかりやすい引用を多用しているだと思う。映画の最初から「私がゴダールです」とでも言いたげに画面に登場するし、その役柄が白痴の男爵というのだから、これはもうパロディ以外の何物でもない。

 全体の構成はどう考えてもギクシャクしていると思うのだが、それは互いに無関係な3つのエピソードを、最後まで無関係なまま同時進行させているのだから仕方がない。全体としてひとつの映画にもならず、かといってそれぞれのエピソードも他のエピソードに分断されてひとつには流れない。結局この映画は、今その場にある瞬間だけを楽しむ映画のようにも思う。

(原題:SOIGNE TA DROITE)

2003年3月上旬公開予定 シネセゾン渋谷(レイト)
配給:ハピネット・ピクチャーズ、アニープラネット
宣伝:アニー・プラネット
(1985年|1時間22分|フランス)
ホームページ:http://www.happinet-p.co.jp/

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DVD:右側に気をつけろ
関連DVD:ジャン=リュック・ゴダール監督
関連書籍:ゴダール

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