カルマ

2002/11/28 映画美学校第2試写室
精神科医のもとにやってきた若い女性が見る幽霊の正体は?
人間の心の奥深くにある傷を描くネオホラー。by K. Hattori

 ジャパニーズ・ホラー映画『リング』がアメリカで『ザ・リング』に生まれ変わり、日本のホラー映画ブームが一過性のローカルな現象ではなく、世界の映画史に影響を与えた一大ムーブメントであることが立証されたように思う。本作『カルマ』の存在も、そんなジャパニーズ・ホラーの影響力を立証している。この映画はやはり、いくつかの日本製ホラー作品から影響を受けているのだ。クライマックスの恐怖描写など、まるで『リング』そのものではないか。

 主人公は大学の教室で授業を受け持つかたわら、精神科担当の医師として病院に勤務し、自身のクリニックも持っているジムという男。彼のもとに友人の医師から、彼の妻の従姉妹だという若い女性患者ヤンが回されてくる。彼女はしばしば幽霊を目撃し、新しく引っ越した部屋でも事故死した大家の妻子の幽霊につきまとわれているという。心霊現象はすべて人間の脳内に生じたイメージに過ぎないというのが信念のジムは、ヤンの身の回りに起きる現象もすべて心理学的に説明が付くはずだと考える。だが彼女の治療を続ける内に、ジムの周囲でも奇妙な現象が起き始める。ヤンの症状がジムにも何らかの影響を与えてしまったかのようだ。やがてジムはヤンの心の病を癒すため、ある荒療治に訴えるのだが、それは新たに始まる恐怖の序章に過ぎなかった……。

 心霊現象を信じない医師が、幽霊の目撃を訴える若い女性の診察を通して目に見えない別の世界をかいま見てしまう……という心霊映画かと思ったら、これがちょっと違う。この映画の中ではすべての心霊現象が心理学的に説明できるように作られており、物語は「除霊」や「慰霊」や「怨霊調伏」というオカルティックな方向に流れることなく、心の奥深くにある闇に閉ざされた傷跡を、いかにして癒していくかということがテーマとなる。人間を苦しめるのは死者の霊ではなく、生き残った人間が心の中で抱く死者への負い目だ。人間はこうした負い目に耐えられず、心の奥深いところに過去の辛い記憶を隠してしまう。忘れるわけではなく、仕舞い込んでしまうのだ。だが心の奥底に隠された記憶は、何かの拍子に表面に吹き出してくる。

 映画は前半と後半の二段構えで、タイプの違う恐怖を見せてくれる。前半は古典的な幽霊譚。それが解決したと思うと、次に恐怖の第2幕が開く。「幽霊なんてすべて心が生み出した妄想だ」と言い切っていたジムが、自分自身の心からあふれ出るイメージの洪水に恐れおののく。それは幻覚とか錯覚という生易しいものではない。幽霊を見る当事者にとって、それは人間の心の一番弱いところをガシリとつかみ、ギリギリと絞り上げる現実の亡者なのだ。

 レスリー・チャンが相変わらず若々しい。この人が年をとることってあるんだろうか。相手役のカリーナ・ラムと22歳も離れてるようには、とても見えないんですけどね……。

(原題:INNER SENSES 異度空間)

2003年新春第2弾公開予定 新宿武蔵野館
配給:クライドフィルムズ
(2002年|1時間40分|香港)
ホームページ:http://www.clydefilms.co.jp/karma/

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