裸足の1500マイル

2002/11/22 GAGA試写室
オーストラリア政府のアボリジニ差別政策を告発する実録ドラマ。
アボリジニの少女を演じた子役たちの表情がいい。by K. Hattori

 1880年代から1970年代にかけて、オーストラリア政府は原住民であるアボリジニを居留地に隔離し、子供たちに英語とキリスト教教育を施して白人社会と同化させる「隔離同化政策」を行なっていたという。1930年代にはアボリジニの少女たちをメイドとして雇う白人男性との間で意図的に混血児を作り出し、アボリジニという人種そのものを白人の中に取り込んでしまおうとする、いわば「アボリジニ絶滅政策」までが国の方針として承認されていたらしい。ナチスのユダヤ人絶滅政策とはまったく逆の方法だが、白人の目から見た劣等人種を地上から抹殺しようとしている点で、ふたつはまったく似かよっている。この映画はそんなアボリジニ受難時代の実話を、オーストラリア出身のフィリップ・ノイス監督が映画化した実録ヒューマンドラマだ。

 1931年。西オーストラリアのジガロングというアボリジニの居留地で、3人の混血少女たちが保護される。父親は白人で、母親はアボリジニ。14歳のモリーと、妹で8歳のデイジー、そして従姉妹のグレイシーは10歳だった。家族と強制的に引き離された3人は、1900キロ離れたムーアリバーの施設に送られ、そこで白人社会に適応すべく教育を施される。英語やキリスト教の強制。外から鍵をかけられた宿舎。脱走者に対する過酷な懲罰。こうした仕打ちのひとつひとつが、少女たちに施される「保護と教育」なるものの実態が、白人社会に奉仕する奴隷の育成であることを物語っている。モリーたち3人は、監視の目を盗んで施設を脱走。オーストラリア大陸を縦断するウサギよけフェンスに添って北上し、故郷ジガロングを目指す。大きく三日月型に湾曲したその移動行程は、およそ1500マイル(2400キロ)に及んだ。

 オーストラリア政府が行なっていたアボリジニ差別政策を批判する映画だが、この映画には差別を声高に批判する声はひとつもない。「差別される側」であるアボリジニの少女たちの視点を貫くことで、差別政策のグロテスクな実態を暴き出していく。アボリジニの保護官であるネビルという男がこの映画の中では悪役として描かれているのだが、演じているケネス・ブラナーも監督のフィリップ・ノイスも、この男を悪人としては描かない。

 「悪役=悪人」ではないのだ。このネビルという男は彼自身の信念に基づいて、まったくの善意からアボリジニ保護に誠実に取り組んでいる。手ひどい差別は、しばしば善意から生み出されるのだ。戦前の日本が朝鮮半島で行なっていた民族同化政策は、まるでこの映画に登場するアボリジニの隔離同化政策と同じではないのか。あるいはかつて日本で行なわれていたハンセン病患者の隔離政策も、善意の名によって行なわれていたという意味では同じようなものかもしれない。善意から発した過ちは改めにくい。それが差別政策の転換を難しくしてしまうのだろう。

(原題:RABBIT PROOF FENCE)

2003年新春公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、樂舎
(2002年|1時間34分|オーストラリア)
ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:裸足の1500マイル
サントラCD:LONG WALK HOME
原作:裸足の1500マイル
原作洋書:RABBIT PROOF FENCE
シナリオPB:RABBIT PROOF FENCE
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