完全なる飼育
香港情夜

2002/11/06 TCC試写室
伊藤かな主演のシリーズ第3弾は香港が舞台。監督はサム・レオン。
濡れ場の少なさが物語から説得力を奪っている。by K. Hattori

 松田美智子のドキュメンタリーノベル「女子高校生誘拐飼育事件」を原作にした、映画『完全なる飼育』の第3弾。中年男が女子高生を誘拐して共に暮らすうちに、ふたりの間に本物の愛情が芽生えるという物語の骨子はどれも同じだが、小島聖がヒロインを演じた1作目は実話の面白さを忠実になぞりながら方向としては人間喜劇を狙い、深海理恵がヒロインを演じた2作目『完全なる飼育/愛の40日』は密室の中で醸造発酵していく男女の微妙な心理を追った作品になっていた。今回の3作目は舞台を香港に移して、物語よりも映像美を狙った作品に仕上がっているように思う。

 今回のヒロインは伊藤かな。誘拐犯を演じるのは『花火降る夏』『重装警察』のトニー・ホー。脇役に竹中直人とラム・シューがゲスト出演している。監督は『大混乱/ホンコンの夜』や『カラー・オブ・ペイン/野狼』のサム・レオン。この人はプロデューサーとして『無問題(モウマンタイ)』シリーズを作っているが、監督としては三流の才能しかなく、今回の映画もドラマとしてはまるでダメだと思う。そもそもなぜ男が女子高生を誘拐したのか、その動機や執着がまったくわからないし、誘拐された女子高生が誘拐した男を愛し始めてしまうという理由もまったく弱い。これは脚本に問題があるのだと思う。

 トニー・ホー演じる中年のタクシー運転手ユン・ボウは、たまたま車に乗り込んだ日本の女子高生・鳴島愛を誘拐して自宅に監禁する。この前にユン・ボウが可愛がっていたブタが死ぬというエピソードがあり、どうやら女子高生が持っていたアクセサリーの鈴が、ブタの首輪に付いていた鈴の音色を連想させたらしい。でもその程度で人間の女の子を誘拐するんですか? だいたいこの男は、飼っていたブタとどういうご関係だったんだよ! 誘拐の動機にブタを持ち出すのは、どう考えても無理があるし、ブタのかわりに女子高生を誘拐して一緒に添い寝しているというのも、なにやらグロテスクだなぁと思う。

 このシリーズはヒロインの大胆な脱ぎっぷりと過激な濡れ場が売りなのだが、今回はそれがやけに大人しいことにも物足りなさを感じた。若い女優のヌードが見たいというよこしまな気持ちももちろん大ありなのだが、それ以上に、この物語を成立させるのにセックスの問題は避けて通れないと思うからだ。この映画はシリーズ3作目にして、いよいよ誘拐した男と誘拐された女の間に言語コミュニケーションが成立しない設定を持ってきた。だとしたらふたりの間で、セックスが大きな比重を占めるようになるのは当然だろう。

 セックスがすべてだとは言わないが、セックス抜きにしてこのふたりの愛情関係を説得力のあるものにすることは難しい。ヒロインがファザコンだとしても、それと男女の愛情は明らかに違うはず。男女の性と愛の問題を、もう少し掘り下げてみてもよかったんじゃないだろうか。

2002年12月上旬公開予定 銀座シネパトス
配給:アートポート
(2002年|1時間36分|日本)
ホームページ:http://www.shiiku3.jp/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:完全なる飼育/香港情夜
関連DVD:『完全なる飼育』シリーズ
原作:女子高校生誘拐飼育事件(松田美智子)
ノベライズ:完全なる飼育―香港情夜(松田美智子)
関連DVD:サム・レオン監督
関連DVD:伊藤かな
関連DVD:トニー・ホー

ホームページ

ホームページへ