SFホイップクリーム

2002/10/24 映画美学校第1試写室
『不思議惑星キン・ザ・ザ』に触発された武田真治主演のSFドラマ。
異星人の挨拶は「クー」ではなく「ワラワラ」だ。by K. Hattori

 『RUSH!』や『DOG STAR』などコンスタントに監督作を発表している瀬々敬久監督の最新作は、ソ連製作のカルトSF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』オマージュを捧げたSF映画だ。若干だがハリウッド製のカルトSF映画『ブレードランナー』の要素も入っているような気がする。はぐれ者の主人公が国家権力の歪んだ政策に翻弄されて殺伐とした世界を旅し、やがて愛する者との生活に逃避するという物語を、主人公のモノローグを多用した一人称で語るあたりが初公開時のハードボイルド映画風『ブレードランナー』かなと……。出も表面的な意匠に関しては、コンテナ型の宇宙船にしろ、砂漠の乾いた風景を基調にしたロケーションにしろ、地球人とまったく見た目が変わらない宇宙人にしろ、宇宙人たちが「ワラワラ」だけですべての会話を済ませてしまうことにしろ、やっぱり『キン・ザ・ザ・』の影響力は絶大なものがあると思う。

 時は近未来の東京から始まる。主人公は不法入国した宇宙人に育てられた地球人の子供KEN。成長して麻薬の密売人として生計を立てるようになったKENだが、ブツを横流ししていることがボスにばれて命を狙われる。やむなく警察に逮捕されたKENだったが、そこで待っていたのは「母星への強制送還」という理不尽な処置だった。捨て子のKENはまともな身分証明書を持っていないため、宇宙人名義の偽造身分証を持っていたのだ。こうして縁もゆかりもない母星へと運ばれたKENと移送担当官のHIDEは、そこで政府とゲリラの戦いに巻き込まれるなど、思いがけない大冒険を繰り広げることになる。

 主人公KENを演じるのは武田真治。移送担当官HIDEを演じているのは松重豊。異星で出会う美少女KAZUを演じるのは池端絵美子。撮影場所はどこか外国らしく、砂漠があったり廃墟があったりする。こうした映画のルックスは、そのまま『キン・ザ・ザ』からの引用と言えるだろう。『キン・ザ・ザ』はかなりチープなSF映画だったが、この映画はそれ以上に安い。意匠などは映画のために何も新しく作っていなさそうだし(ヒロインの服は作ったのかなぁ……)、登場する車両や銃器などもそのまま西暦2002年のまま。コンテナ型の宇宙船を画面に合成し、ナレーションで年代や宇宙旅行について説明するだけで、とりあえず「近未来のお話」にしてしまう強引さ。

 しかしこの強引さがあればこそ、この映画が楽しいものになっているのだろう。作り込んだ衣装やセットで作品の大雑把な雰囲気が失われてしまったら、この映画の魅力は半減だ。作品としては結局何が言いたいのかよくわからない部分も多いのだけれど、そこはそれ、こうして馴れ合いを楽しむような風情もまたヨシなのだ。何しろこの映画のサブテーマはプロレス。選手と観客の無言の合意の上にプロレスは成り立つもの。買った負けたの世界じゃないぜ!

2003年正月公開予定 ユーロスペース
配給:スローラーナー
(2001年|1時間35分|日本)
ホームページ:http://www.slowlearner.co.jp/

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