ミッションブルー

2002/10/16 メディアボックス試写室
スキート・ウーリッチ主演のサスペンスだが情感欠如は欠点。
邦題は全編真っ青な画面の意味だろうか。by K. Hattori

 国際貿易都市ロッテルダムで投資銀行の保安部員をしているケビンの仕事は、商取引で生じる危険からクライアントを守ることだ。取引先の中には治安の悪い国もあれば、ギャングまがいの連中もいる。国際取引というのは、当事者たちの命に関わる一触即発の危険と隣り合わせなのだ。ケビンはその働きぶりを認められて社内で最年少の保安部長に昇進するが、その直後に同じ会社で働く恋人ロザリンドを目の前で射殺されてしまう。なぜ彼女は殺されたのか? 事件捜査に地元警察だけでなく、インターポール(国際警察)まで関与しているのはなぜか? ケビンは社内の情報網を使って、ロザリンド射殺犯とその背後にいる黒幕に迫っていくのだが……。

 主演は『スクリーム』『楽園をください』のスキート・ウーリッチ。主人公の周囲に常に見え隠れする謎の美女にクリスティ・スワンソン。主人公の上司役で出演するデレク・デ・リントやその愛人役のレナ・オーウェン、古参の警備部長を演じるセルジュ=アンリ・ヴァルックなど年配の役者たちが、ウーリッチやスワンソンといった若い役者を脇から支えて重厚な物語世界を作り出している。監督・製作・脚本のローレンス・マルキンは、この映画がデビュー作。CMやミュージックビデオの監督をしていたという彼の演出ぶりは、語り口が非常に滑らか。少なくとも物語を語ることについては申し分のないものだ。

 この映画はお話がそこそこ面白くなっているし、語り口もスピード感があってスイスイ流れていく。しかしこの「スイスイ流れていく」というのがクセモノ。この映画は流れがスムーズすぎるのだ。どこにも引っかかりがない。この物語は主人公と恋人の関係がそもそもの出発点であり、物語が進行していく中でもしばしば回想シーンとして主人公ケビンとロザリンドの関係に引き戻される。だが映画を観ていると、その必然性があまり感じられないのだ。映画全編を凍てついたような濃いブルーで染め上げ、この回想シーンだけを暖色系の色でまとめ上げるという色彩設計上の仕掛けばかりが目について、主人公の行動を支える大きなトラウマとしての「恋人射殺事件」が浮かび上がってこない。

 この映画は「絵」を巧みに作っていても、その下にあるべき登場人物たちの心や感情が見えて来にくい弱点がある。僕が唯一この映画で登場人物の心の動きを感じたのは、社長の愛人カリーナがケビンへの協力をとがめられ「ごめんなさい。もうしないわ」と答えるシーンのおびえた表情ぐらいのもの。事情がまったくわからないまま、目の前にいる愛人の心が急速に自分から離れていくことを感じている女のすがるような目つき。このシーンのレナ・オーウェンはとてもいい芝居をしている。しかしそれに匹敵する芝居が、他にはほとんど見当たらないのは残念だ。作り手の作為ばかりが先走って、ハートのない映画になってしまっているように思う。

(原題:Soul Assassin)

2002年11月公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:東芝デジタルフロンティア
(2001年|1時間35分|オランダ、アメリカ)
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DVD:ミッション・ブルー
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