マイノリティ・リポート

2002/10/16 20世紀フォックス試写室
スピルバーグがトム・クルーズ主演でディックの短編小説を映画化。
アクション演出にまったく精彩が感じられない。by K. Hattori

 フィリップ・K・ディックの同名短編小説を、スピルバーグがトム・クルーズ主演で映画化したSFアクション映画。物語の舞台は、プリコグ(予知能力者)を使って未来に起きる殺人事件が完全に抑止された近未来のアメリカ。犯罪予防局の主任刑事ジョン・アンダートンは、ある日プリコグの予告する殺人事件の犯人として、自分自身の名前がアウトプットされたことに驚く。しかも自分が殺す相手というのは、一度の面識もない赤の他人だ。これは自分を陥れようとする謀略に違いない。ジョンはかつての部下たちに追われながら、この不可解な予知の真相を調べ始める。やがて彼は、3人のプリコグの予知が常に一致するわけではなく、2対1で票が割れるケースが生じていることを知る。こうした「少数報告」はシステムの信頼感を損ねるものとして、システム内部で抹殺されていたのだ。だがもしその少数報告こそが未来の真実だとしたら?

 原作を脚色したのはスコット・フランクとジョン・コーエン。映画は「犯罪防止局の刑事が、身に覚えのない自分の犯罪を予知される」という導入部以外はまったく原作から離れていくように見えて、じつは重要なトリックの部分できちんと原作と同じ仕掛けを使っている。ただし原作との一番の違いは、未来を人間の意思で変えられるか否かという部分だろう。原作では「プリコグの予知は絶対に変更不可能」「プリコグの予知は常に絶対正しい」「しかしプリコグの予知にはいくつかの選択肢がある」という矛盾する命題を解決していくミステリーだったのだが、映画はそのあたりを少しぼかしている。この映画は未来予知と人間の自由意思を巡る謎解きより、身に覚えのない罪で警察に追われる男が、現職警官という持ち前の立場や能力を生かして窮地をすり抜けていくというアクションに主眼がおかれているのだ。トム・クルーズがサマンサ・モートンと逃げるシーンは、ディックの傑作短編「ゴールデンマン」に似ているなぁ……などと思って観ていたんだけどね。

 原作の短編小説を2時間半の長編映画にするにあたって、映画にはさまざまなアイデアが投入されている。そのほとんどは未来世界の描写だ。網膜検査で個人識別し、個人宛に個別のメッセージを発する広告。この広告社会は、確かディックの他の短編にその原型があったと思う。他にも巨大スクリーンを使った肉体労働型コンピュータ、完全自動制御の交通機関、空飛ぶ警官、2.5次元の立体テレビ……。こうしたアイデアの多くは、スピルバーグの前作『A.I.』に非常に似たテイストを持っている。

 ただしこの映画、全体としてはまったく面白くない。スピルバーグともあろう者が、なぜまたこんなに気の抜けた映画を作ってしまったのだろうか。脚本段階で物語をもっとシェイプできたはずだが、それ以上に怪訝なのは、スピルバーグのアクション演出にまったく精彩がないことだ。

(原題:MINORITY REPORT)

2002年12月7日公開予定 日劇1他・全国東宝洋画系
配給:20世紀フォックス
(2002年|2時間25分|アメリカ)
ホームページ:http://www.foxjapan.com/movies/minority/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:マイノリティ・リポート
サントラCD:マイノリティ・リポート
原作:マイノリティ・リポート
関連DVD:スピルバーグ
関連DVD:トム・クルーズ
関連書籍:フィリップ・K. ディック

ホームページ

ホームページへ