僕のスウィング

2002/09/30 松竹試写室
ロマ文化の伝道師トニー・ガトリフ監督の最新テーマはジプシー・ジャズ。
チャボロ・シュミットの演奏だけでも観る価値がある。by K. Hattori

 夏休み中、他の妹弟と一緒にストラスブールの祖母宅に預けられた10歳の少年マックスは、街の酒場でギターを弾くミラルドという男に出会う。初めて耳にしたジプシー・ギターの音色に魅せられたマックスは、郊外にあるロマの居住区を訪ねて古ぼけたギターを購入し、ジプシー風の奏法を習うためにミラルドのキャンピングカーに通い始める。だがやがてギター以上に彼を魅了しはじめたのは、同じロマ地区に住む同年輩の少女スウィングだった。こうなるとミラルドの熱のこもったギター指導も、マックスの耳には入らない。好きで習い始めたギターのはずなのに、やれ「頭が痛い」「気分が悪い」と言い訳しては、スウィングと近くの森や川で遊ぶ日々。その幸せな日々は、永遠に続くかのようにも思われたのだが、やがてその夏の日は終ってしまうのだ……。

 ロマの血を引くフランスの映画監督トニー・ガトリフの最新作は、今回もまた彼の愛するロマ(ジプシー)の音楽をモチーフにした作品となっている。陽気だが、その明るいメロディの下に深い悲しみをたたえたマヌーシュ・スウィング(ジプシー・ジャズ)の演奏。貧しいながらも自由を謳歌しているかに見えるロマの人々が、ほんの数十年前に激しい迫害を受けたという歴史の悲劇。時代の流れの中で移り変わっていく、ロマの生活と音楽の伝統。こうしたガトリフ作品の基調となる旋律に、今回は10歳の少年が経験する一夏の恋が重なり合って、美しいハーモニーを響かせる。

 少女の名前が「スウィング」であることからもわかるとおり、この映画は主人公の少年の恋を描きながらも、徹底して彼と「音楽」の関係について描いている。スウィングという少女は、マックスが出会うマヌーシュ・スウィングの象徴なのだ。マヌーシュ・スウィングの持つ、明るさ、躍動感、野性味、荒々しさなどは、そのまま少女スウィングの魅力に重なり合う。マヌーシュ・スウィングの底に流れる、哀しさ、暗さ、民族性なども、そのまま少女スウィングに当てはまる。マックスはマヌーシュ・スウィングを愛し、ロマの少女スウィングも愛する。夏が終るとマックスはマヌーシュ・スウィングと別れ、同時に少女スウィングとも別れなければならない。ふたつは不可分の関係だ。

 マックスのギターの先生となるミラルドを演じているのは、マヌーシュ・スウィングの演奏家であるチャボロ・シュミット。もちろん劇中の演奏シーンは、彼自身がギターを演奏している。キャンピングカーの中で20人のミュージシャンが演奏するシーンや、ミラルドと仲間たちがクラシックの演奏家たちと一緒にロマの音楽を演奏するシーンは、まさに本物の迫力。『ベンゴ』で正真正銘本物のフラメンコを映画の中に結晶化させたトニー・ガトリフ監督は、この映画でも生粋のマヌーシュ・スウィングをたっぷりと堪能させてくれる。ミラルドが倒れるシーンの、映像と音楽のコントラスト!

(原題:SWING)

2003年お正月公開 シネマライズ
配給・宣伝:日活
(2002年|1時間30分|フランス)

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