キス★キス★バン★バン

2002/09/24 映画美学校第1試写室
イギリスから誕生したハードボイルド風のユーモア映画。
笑って泣ける、スタイリッシュでオシャレな映画。by K. Hattori

 かつて殺し屋組織のナンバーワンだったフィリックスは、近頃すっかり能力の衰えを感じている。体力云々ではなく、殺し屋としての勘がすっかり鈍っている。久しぶりの仕事でも目の前からターゲットに逃げられ、やけに無様な醜態をさらすことになってしまう始末だ。フィリックスはこの際、一線から身を引いて穏やかな生活に入ろうと決意する。だが組織の若いボスは、彼のそんなささやかなわがままを許そうとはしなかった。自分に追っ手が向けられたとはまったく知らないフィリックスは、ある金持ちの男から、出張中の子供のお守りを依頼される。だが幼い頃から子供部屋の中だけで育てられたというその“子供”は、ババという名の30男だった!

 主人公フィリックスのモノローグが多用された、ハードボイルド・サスペンス風のスタイル。だが映画は全体としてユーモアたっぷりのコメディ路線だ。組織から足を洗おうとするナンバーワンの殺し屋に組織の刺客が迫るという物語も、主人公の絵に描いたような殺し屋スタイルも、暴力の世界で生きてきた男が怪しげな富豪から無垢な子供を預けられるというアイデアも、いかにもこの手のサスペンスものの常套手段。しかしこの映画はその常套手段を幾重にもひねって、全編にニヤニヤ笑いがあふれる良質のユーモア作品にしている。

 こうしてジャンル映画をパロディにした場合、スタイルだけ借りてものすごく安っぽい映画を作ってしまうとか、スタイルの枠組みに頼ってハチャメチャに物語をぶっ壊していくという手法がしばしばとられる。しかしこの映画は、こんな映画なのに徹底して美術や衣装の細部にこだわり、映像もきっちりと作り込んでいく。映画の印象としては、かなりリッチなのだ。それでいてこの映画の世界は、少しずつ「定番描写」からズレがある。主人公の殺し屋は組織のナンバーワンだったはずなのにひどく貧乏だし、組織のアジトは橋の下の巨大なボイラー室のような場所だし……。こうして少しズレた大真面目に映像化しているからこそ、元殺し屋が33歳の“男の子”と共同生活をはじめるという荒唐無稽な話も成り立ってくるのだろう。

 主人公のフィリックスを演じているのは、『奇跡の海』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のステラン・スカルスガルト。33歳の男の子ババを演じるのは巨漢のクリス・ペン。兄のショーン・ペンが『アイ・アム・サム』で知的障害のある男を好演している裏で、弟もこんなことやってたんですなぁ。フィリックスを慕う若い殺し屋を、『ビューティフル・マインド』『ロック・ユー!』のポール・ベタニーが演じ、フィリックスの恋人を『ディープ・ブルー』のジャクリーン・マッケンジーが演じている。監督はこれが2作目のスチュワート・サッグ。イギリス、アメリカ、スウェーデン、オーストラリアなどの才能が結集した、かっこよくて、笑えて、しかも泣ける映画です。

(原題:KISS KISS (BANG BANG))

2003年正月公開 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給・宣伝・問い合せ:ギャガ・コミュニケーションズKシネマ
協力:ハピネット・ピクチャーズ
(2000年|1時間41分|イギリス)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/kisskiss/

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