容疑者

2002/09/17 GAGA試写室
ロバート・デ・ニーロの息子を演じたジェームズ・フランコの存在感。
映画も凄いが、この若い俳優の今後も楽しみだ。by K. Hattori

 NY市警殺人課のベテラン刑事ビンセント・ラマーカは、同僚たちからの信頼も厚く、同じアパートに住む恋人ミッシェルとの関係も順調という、いたって平和な生活を享受している。だがブルックリンの河岸に麻薬ディーラーの他殺体が打ち上げられたことから、ビンセントの生活は混乱の中に落ちていく。被害者がロングアイランドを根城にするチンピラだったことは、その所持品からすぐに割り出された。ロングアイランドはビンセントにとって苦い思い出のある土地だ。やがて捜査線上に浮かび上がる、ジョーイという容疑者の名前。それはビンセントと離婚した妻との間に生まれた一人息子だった……。

 主演はロバート・デ・ニーロ。恋人ミッシェル役にはフランシス・マクドーマンド。アカデミー賞俳優ふたりがカップルを演じる豪華な顔ぶれだが、この映画でもっとも注目を浴びるのは、恐らく息子ジョーイを演じるジェームズ・フランコだと思う。大ヒット作『スパイダーマン』で、主人公ピーターの親友を演じていた若い俳優だが、その際はまったく存在感を発揮していない影の薄い俳優だった。ところがこの映画では、麻薬に溺れて自滅していく若者を、じつにリアルに、存在感たっぷりに演じてみせる。獣のようなギラギラした視線の底に、深い悲しみをたたえたその表情は、『理由なき反抗』や『エデンの東』のジェームス・ディーンを彷彿とさせる。今回は薄汚い麻薬中毒者の役でしかなかったが、この骨っぽさ、芝居度胸、それでいて繊細な演技力は大いに買いだ。おそらくここ1,2年で大きくブレイクする俳優だと思う。

 監督は『メンフィス・ベル』『ロブ・ロイ』のマイケル・ケイトン・ジョーンズ。原案はマイケル・マッカラリーというピュリッツァー賞作家の書いた実話記事だというが、それを濃厚な父と子のドラマに仕立てた製作者たちの腕前は見事。ロングアイランドの往時の隆盛と現在の寂れた姿をオープニングで対比させ、美しく愛おしい風景が時間の流れの中で無惨に変質してしまうことを象徴的に描き出す。金色に輝く日々は過ぎ去り、二度と戻ってくることはない。だがそれでも、人は灰色の日常の中で生き続けなければならない。灰色の日常の中で、新しい命を生み育てていかなければならない。少しでも明るい未来がきっと開けてくることを信じて、日々の歩みを続けなければならない。その辛さ。その苦しさ。逃げ出してしまいたくなる現実の重み。

 決して明るい映画ではない。映画を観ていて、テーマのどっしりとした重さが胸にこたえる。だが映画の後味は爽やかだ。現実には辛い未来があるのかもしれないが、今ここで未来に夢を見ることができれば、今日1日を生きていける。その1日はかけがえのない美しい日として、思い出に残るだろう。親子の愛情というきわめてベーシックな関係性に戻ることで、ゼロからでも新しい未来を築いていこうとする主人公の姿に感動。

(原題:CITY BY THE SEA)

2002年10月12日公開 日比谷映画他、全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2002年|1時間48分|アメリカ)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/yougisha/

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サントラCD:CITY BY THE SEA
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