殺し屋

2002/09/10 アウラ・スクリーニング・ルーム
アンドレイ・タルコフスキーが学生時代に作った短篇映画。
タルコフスキー本人も脇役出演している。by K. Hattori

 『惑星ソラリス』『ストーカー』のアンドレイ・タルコフスキー監督が、全ロシア国立映画大学3年生の時、クラスメイトのアレクサンドル・ゴルドンと共同で監督した20分のモノクロ短篇映画。現存するタルコフスキー作品としてはもっとも古いものだという。製作は1956年。原作はアーネスト・ヘミングウェイの同名短編小説。同じ小説は'46年にバート・ランカスターとエヴァ・ガードナー主演映画『殺人者』としてハリウッドでも映画化されているし、'64年にはドン・シーゲル監督の手でリー・マーヴィンとロナルド・レーガン主演映画として再映画化されている。それらに比べるとこの『殺し屋』は学生映画なので、全体的に小さな作りだ。セットは殺し屋が立ち寄る軽食堂と、殺しのターゲットとなった男の部屋だけ。出演者も身内ばかりなのだろう。監督のゴルドンは軽食堂の主人役で出演しているし、当時24歳のタルコフスキー本人も店を訪れてサンドイッチを買っていく客の役で出演している。

 小さな軽食堂に黒コート姿の2人組の男がやってくる。明らかに町の外から来たよそ者だ。ふたりは店主に乱暴に食事や酒を注文するが、やがて銃を突きつけて店主や店員、コックなどを脅し、店を完全に支配する。じつは彼らは人に雇われた殺し屋で、常連客としてしばしば店にやってくるスウェーデン人を殺すためにここで待ち伏せをしようというのだ。若い店員とコックは縛り上げられて台所の床に転がされ、店主は銃で脅されながら他の客を店から追い出し、ひたすらスウェーデン人がやってくるのを待つ。だが結局、標的となった男は店にやってこなかった。殺し屋たちは店員たちを解放して店を去っていく。店主は店員に命じて、殺し屋の来訪をスウェーデン人に教えるのだが……。

 物語の舞台をソ連に移したりせず、そのままアメリカを舞台に作っているのだが、風俗考証などはやはりどこか違和感がある。それは半地下になっている店のたたずまいが原因なのか、カウンター席の作りが原因なのか、店にやってくる男たちの姿がギャングの殺し屋にしては妙に野暮ったいことが原因なのか。おそらくそうした細々とした違和感の総体が、アメリカ調の無国籍空間を作りだしているのだと思う。例えば殺し屋たちがハムエッグを食べる、取っ手のついたアルミ製の小さな器にしろ、客から注文されたサンドイッチのために切るパンにしろ、あまりアメリカ映画っぽくないのだ。まぁこれは西側の情報がほとんど入ってこない'50年代に、ソ連国内でヘミングウェイの小説を映画化しようとしているのだからある程度は無理のない話だろう。

 こうした風俗考証を除外してみると、特に暴力的な威嚇なしに軽食堂が殺し屋たちに乗っ取られてしまう描写などに演出のうまさが見られると思う。小さな芝居の組み立てで、店主や店員たち、そして映画の観客に「この男たちには逆らえない」と信じさせるのだ。

(英題:The Killers)

2002年10月19日公開予定 シアター・イメージフォーラム
アンドレイ・タルコフスキー映画祭
配給:ロシア映画社 企画・宣伝・問い合せ:イメージフォーラム
(1956年|20分|ソ連)

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原作:ヘミングウェイ全短編〈1〉(「殺し屋」収録)
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