ごめん

2002/08/28 メディアボックス試写室
年上の少女に一目惚れした小学6年生セイの奮闘ぶり。
ひこ・田中の同名小説を冨樫森が映画化。by K. Hattori

 女の子の初潮をお赤飯で祝うという話はよく聞くが、男の子の精通を祝ったという話はあまり聞かない。少年にとって始めての射精は戸惑いと気恥ずかしさと恐れの入り交じった体験らしい。僕もどこかでそれを経験したはずなのだが、今となっては遠い昔の話でまったくその「瞬間」を覚えていない。女の子の生理は月に1度しかないけど、男の子の射精はのべつ幕なしだから最初のことなど忘れてしまったのかもしれない。あるいはあまりの恥ずかしさに、記憶の奥深くに封印してしまったのだろうか……。少なくとも僕の場合、この映画の主人公ほど劇的な体験ではなかったように思う。

 小学校6年生のセイは、国語の授業中に大きくなってしまったオチンチンの処置に困り果てていた。ズボンの上からもはっきりとわかるデッパリは身動きするたびにパンツとこすれ、いよいよ小さくなってくれる気配がない。そしてこういう時に限って、なぜか先生は生徒を教科書の朗読に指名したりするものなのだ。イスから立ち上がってしどろもどろで教科書を読み始めたセイの股間で、やがて何かが爆発した……。(ここで試写室内は爆笑に包まれる。)

 原作は相米慎二の『お引っ越し』の原作者としても知られる、ひこ・田中の同名小説。監督は『非・バランス』の冨樫森だが、彼は相米慎二の助監督だったキャリアの持ち主。今回の映画は故・相米慎二に捧げられている。

 物語はセイの精通体験から始まるが、中心になるのは彼が一目惚れした年上の女の子ナオ(中学2年生)との関係だ。可愛らしい顔して男勝りの強気な台詞がポンポン飛び出す女の子と、彼女にメロメロになりながらもしっかりと自分の意気地を貫き通す男の子の物語は、主人公たちが幼いながらもしっかりとラブコメディになっている。物語の舞台となっている大阪郊外と京都の、丸くて柔らかい関西弁の響きがじつにヨイ。「あんた、ストーカーちゃうやろな!」「僕にもようわからんけど、まじめな気持ちです」という台詞の応酬など、おそらく標準語ではこのおかし味が出てこないと思うのだ。

 好きな人には相手にされず、まったく意識していなかった相手から好かれてしまう恋のすれ違い。クラス内で錯綜する恋愛相関図。セイを見守る両親の姿。ナオの複雑な家庭環境。そうしたエピソードを積み重ねながら、最後の大疾走へとつないでいく構成と演出の巧みさ。セイが自転車をぶっ飛ばすクライマックスは、「動くことこそ映画」「移動することこそ映画」というモーション・ピクチャーの原点。ペダルをこぐセイに、映画を観ている側の気持ちもきれいに重なり合っていく。がんばれがんばれ!と心の中で声援を送る。

 小さな映画ながら、大いに笑い、しんみりさせ、後味は爽やか。今年のベスト10にからんでくる作品だと思う。冨樫森監督は『非・バランス』に続いて児童ものだったけど、次は大人が主人公の映画も観てみたい。

2002年秋公開予定 テアトル新宿
配給:オフィス・シロウズ、メディアボックス
(2002年|1時間43|日本)

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原作:ごめん(ひこ・田中)
関連DVD:非・バランス(冨樫森)

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