Dolls
〈ドールズ〉

2002/08/28 松竹試写室
激しい恋愛模様を人形浄瑠璃に見立てた北野武の新作映画。
アイデアがうまく表現に結びついていないと思う。by K. Hattori

 北野武監督の新作。前作『BROTHER』はジェレミー・トーマスが製作に参加した日英合作映画になり、日米両国をまたにかけた北野武流やくざ映画の集大成として大いに注目を浴びた。それに比べると今回の映画は、やけに扱いが地味なのがチト気になる。地味と言うより、コソコソと映画を公開しようとしているようにさえ見える。これは『HANA-BI』のベネチア映画祭金獅子賞受賞、その余勢を駆った『菊次郎の夏』、本格的な世界進出作と騒がれた『BROTHER』など、次々にエスカレートしていく北野映画人気が前作で一応のピークを迎え、少し落ち着いたということもあるだろう。しかしそれ以上に、作り手も配給側もこの映画に対してちょっと自信なさげなのだ。

 一部の雑誌では既にこの映画を「駄作」の評していたが、僕は必ずしもそうは思わない。北野流暴力映画をひたすらわかりやすく噛み砕いて、それまでの映画にあった省略法の凄味を失い、『ソナチネ』の水割りのようになってしまった『HANA-BI』や『BROTHER』よりは、むしろ今回の映画の方がずっと北野武の映画らしいものだと思う。

 この映画はかなり実験的な構成になっている。映画全体は人形浄瑠璃に見立てられており、いくつかの恋愛にまつわる物語がオムニバス風に劇中に放り込まれ、それを菅野美穂と西島秀俊演じる「つながり乞食」のカップルが横切っていく。このカップルは近松門左衛門の「冥途の飛脚」に登場する忠兵衛と梅川のカップルにもなぞらえられているようだが、僕はこの芝居を知らないのでつながりがよくわからない。残念。腰に巻き付けた赤い紐は、「赤い糸の伝説」のもとになった中国の故事「赤縄(せきじょう)」を思わせる。映画に登場する恋愛のエピソードはどれも激しいもので、狂言回しとなる菅野・西島カップルの物語も含めて現実離れしたファンタジーだ。そのファンタジーを成立させるのが人形浄瑠璃という形式であり、「全編ファッションショー」という山本耀司の衣装なのだ。この映画で北野監督は、芝居という虚構の中にのみ現れる真実を描こうとしている。ただしそれが成功しているのか、観ている人すべてに通じる表現になっているのかというと、大いに疑問も残る。

 結局のところ、「映画全体を人形芝居にする」という見立てが中途半端なのではないか。アイデアは面白いのだが、表現レベルで照れや迷いがあり、アイデアが具体的な表現に結実する前に足踏みをしているようにも思う。あと一歩、いやあと半歩の違いで、この映画は北野映画の新たな傑作になっただろう。僕はこの映画の意欲を買う。しかし作品としては失敗作だろう。

 菅野・西島のエピソードを映画の中盤以降に置くなどすると、もう少し映画の狙いも素直に見えてきたと思う。黒澤明が『蜘蛛巣城』で能の様式を取り込み、木下惠介が『笛吹川』を絵巻物に見立てたように、もっと見立てを全面に押し出してみるべきだったかもしれない。

2002年10月公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:松竹、オフィス北野
(2002年|1時間53|日本)

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挿入歌CD:キミノヒトミニコイシテル(深田恭子)
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