ロックンロールミシン

2002/08/27 シネカノン試写室
『GO』の行定勲監督最新作はインディーズブランドの裏側を描く青春映画。
映画の終盤が少し曖昧なことが大きな傷になった。by K. Hattori

 鈴木清剛の同名小説を『GO』の行定勲監督が映画化した、悩み多き青春グラフィティ。会社での仕事にも恋人との関係にも行き詰まりと倦怠を感じていた賢司は、ある晩偶然、高校時代の友人だった凌一と再会する。高校球児だったはずの凌一は、今では意外なことに自分の仲間3人と立ち上げたインディーズブランドの服を作っているのだという。賢司はその数日後、凌一たちの仕事場をふらりと訪ねてみる。思っていた以上に、真面目に服作りに精だしている凌一の姿に新鮮なものを感じる賢司。彼はそれからちょくちょくその小さな仕事場に顔を出すようになり、やがて会社を辞めて凌一のブランド「ストロボラッシュ」の仕事を手伝うようになってしまう。

 物語は賢司の視点から描かれているが、ドラマを引っ張る本当の主人公は「ストロボラッシュ」のデザイナーとして仲間を牽引していく凌一だ。ファッション業界の裏側という見慣れない世界の案内役として、賢司という素人青年が狂言廻しの役を果たしている。「この世界はこうなってるんだ」「この仕事はこういう具合なんだ」という解説は、物語の中に素人を投じれば自然と生み出すことができる。ありがちなパターンなのだ。

 しかしこの物語を賢司の視点から読み解いていけば、「不思議の国のアリス」や「オズの魔法使い」などと同じ異世界探求のファンタジー映画と同じ構成のドラマと言うこともできるだろう。主人公はうさぎの穴を通ったり竜巻に家ごと吹き飛ばされて、それまで存在すら知らなかった不思議な国に迷い込む。そこでは見るもの聞くものすべてが物珍しい。最終的に主人公はもとの世界に戻ってくるのだが、主人公にとってその世界は、それまでとはほんの少し違った世界に見えるようになっている。やはり同じような構成の映画に、宮崎アニメの『千と千尋の神隠し』があった。もしくは『となりのトトロ』だろうか。デザイナーとして賢司も含めた仲間たちに大きな夢を見させてくれた凌一は、仲間たちが去った後も古びたアパートでミシンを踏み続ける。それはサツキやメイが去った後も、トトロが森で生き続けているのと同じだ。

 僕の母親の実家は洋服屋だったので、部屋のあちこちに巨大な布のロールが立てかけられていたり、布の裁断クズが転がっていたり、仕上がった服が並んでいたり、うなり声のようなミシンの音が聞こえている映画の世界を懐かしいものに感じた。ミシンが何台もかたかた動いている風景というのは、やっぱり活気があるものです。それを「ロックンロールミシン」と言われると、それが例え口から出任せのダジャレだとわかっていても「なるほど」と思っちゃう。

 結末の歯切れの悪さは、脚本段階で凌一の気持ちの変化や葛藤を描き切れていないせいだろう。せっかく楽しい映画なのに、最後に残されたこの曖昧さゆえに、映画の後味が濁ったものになったと思う。

2002年9月公開予定 シネアミューズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
(2002年|2時間|日)

ホームページ:http://www.slowlearner.co.jp/movies/rrm/index.shtml

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:ロックンロールミシン
サントラCD:ロックンロールミシン(めいなCo.)
原作:ロックンロールミシン(鈴木清剛)
関連DVD:行定勲監督
関連DVD:池内博之
関連DVD:りょう
関連DVD:加瀬亮

ホームページ

ホームページへ