ゴスフォード・パーク

2002/08/21 UIP試写室
1930年代初頭のイギリス上流社会の暮らしぶりをアルトマンが描く。
複雑な人間関係を巧みな脚本にまとめ上げている。by K. Hattori

 今年のアカデミー賞で脚本賞を受賞した、ロバート・アルトマン監督の最新作。1930年代のイギリス上流階級の暮らしぶりを、彼らに仕えて働く使用人たちの視点から描いた集団劇だ。最近のアルトマン作品の例に漏れず、この映画も出演者が超豪華。上流階級の人々を演じるのは、マギー・スミス、マイケル・ガンボン、クリスティン・スコット=トーマスといった人々。使用人を演じるのは、ヘレン・ミレン、エミリー・ワトソン、ケリー・マクドナルドといった面々。さらにライアン・フィリップやスティーブン・フライといった顔も見えて、これらが渾然一体となったアンサンブルを作り出す。人物それぞれに思惑があり、その思惑が小さなエピソードを生み、エピソードが重なり合い、ぶつかり合って大小さまざまなドラマを紡いでいく。

 映画の冒頭に出てくるのは、老齢のコンスタンス・トレンサム伯爵夫人と、彼女に仕える若い付き人メアリー・マキーシュラン。伯爵夫人は大雨の中、運転手付の高級車でゴスフォード・パークに向かうのだが、この時乗っている車は昔ながらのリムジン。伯爵夫人が乗る座席部分以外は外部にむきだしで、荷物も外部にくくりつけてあるし、運転手と使用人は前部座席で雨ざらし(一応幌は付けられる)。これは昔の馬車の名残で、運転手は御者扱いになっているわけだ。これに対して伯爵夫人を途中で追い抜いていく映画会社のプロデューサーと俳優は、運転席と後部座席に仕切のないセダンタイプの車に乗っている。運転しているのはプロデューサー本人で、使用人は後部座席に座っている。この場面だけで、イギリス貴族の古風な価値観や暮らしぶりと、上流階級と同席しながらもまったく価値観の異なるアメリカ人の暮らしを対比させているわけだ。屋敷に到着したメアリーが、主人の名前から「ミス・トレンサム」と呼ばれるエピソードも印象に残る。使用人はここでそれぞれの固有名詞を剥奪され、主人の名前で呼ばれるようになるのだ。

 映画の中心になるのは、ケリー・マクドナルドが演じる「ミス・トレンサム」ことメアリー・マキーシュラン。彼女は経験の浅い若い使用人という設定なので、主人の伯爵夫人や先輩の使用人たちからあれこれと上流階級のしきたりや決まり事を仕込まれる。こうして映画を観ている観客も、彼女と一緒にイギリス上流階級の暮らしを解説してもらえるわけだ。映画プロデューサーのワイズマン氏も、新作映画の取材のために上流階級の暮らしを見聞しているという設定。彼に付いている若い使用人も、どうやらこの仕事に不慣れな様子。こうして二重三重に「素人」を配置しているのは上手い方法だ。

 イギリス上流階級に仕える使用人の生活を描いた映画には『日の名残り』があったが、この映画には『日の名残り』にあったノスタルジーの要素が皆無だ。当時の暮らしぶりを詳細に再現しながら、その視点はどこまでも冷めている。

(原題:Gosford Park)

2002年10月公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:UIP
(2001年|2時間17分|アメリカ)

ホームページ:http://www.uipjapan.com/gosfordpark/

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