2002/08/05 東映第1試写室
柳美里(ゆう・みり)と東由多加の壮絶な愛の記録を映画化。
江角マキコと豊川悦司は熱演しているが……。by K. Hattori

 小説家の柳美里は妻のある男性の子どもを妊娠して一度は中絶を考えるが、かつての恋人で有名な劇作家の東由多加が末期ガンで余命幾ばくもないことを知ると、子供を生んで彼とふたりで育てたいと考える。東もこれに賛成して、ふたりは同居し始める。こうして子どもの誕生と育児、末期ガン患者の闘病と死という正反対のプロセスが同時進行する、壮絶なドラマがスタートする。

 原作は柳美里と同名ベストセラー「命」「魂」「生(いきる)」の3作。柳美里作品の映画化としては、韓国映画『家族シネマ』に続く2作目になる。この映画の特徴は、ヒロインであり物語の語り手でもある柳美里も、末期ガンで闘病する東由多加も、まるきりの実名で登場すること。東由多加は人気劇団・東京キッドブラザースの主催者・劇作家・演出家。柳美里は十代の頃この劇団に研究生として入団し、その後10年近く東と同棲生活を送っていたという。彼女の文筆の才能を見出し、演じることではなく書くことを薦めたのも彼だというから、いわば彼は小説家・柳美里の生みの親でもあるのだ。

 映画の中では柳美里を江角マキコが演じ、東由多加を豊川悦司が演じている。彼はこの映画で末期ガン患者を演じるために13キロも減量したという。ふたりとも熱演していることは確かだ。だが本当にこのキャスティングが良かったのかどうかは疑問。現実の柳美里と東由多加は20歳以上の年齢差があった。男女の恋愛関係において年齢差は大きな障害にならないが、このふたりの関係の場合、この年齢差があればこそ彼が彼女に対して時には絶対者として振る舞う「師弟関係」があり得、彼が彼女に対して保護者のように振る舞う「疑似親子関係」が成立していたようにも思う。ところが江角マキコと豊川悦司は、たかだか4歳しか離れていない。これでは東由多加が柳美里に対して「あなたは○○でしょ」「あなたは××できない人です」などと断定調の口をきくシーンに違和感が出てしまう。「あんたは一体何者なの?」と思ってしまうのだ。回想シーンの中の柳美里をもっと若い女優に演じさせると、ふたりの年齢差と関係性がきちんと観客に印象づけられたような気もするのだけれど……。

 監督は『月とキャベツ』『はつ恋』の篠原哲雄。今年は同時期に『木曜組曲』も公開されるという売れっ子ぶりだ。脚本は大森寿美男。主題歌を安室奈美恵が歌っているのだが、この映画を作り始めた頃はまさか彼女が離婚して子どもまで手放してしまうとは誰も思わなかったんだろうなぁ……。

 泣かせるシーンが幾つかある。豊川悦司扮する東がお宮参りに出かけた神社で父子連れの姿を見て、赤ん坊を抱いたままホロホロと鳴き始めてしまう場面は胸に迫るものがあった。誕生を祝福される赤ん坊と、これから死んでいく男と、今後絶対に訪れることのない風景の対比。残酷で切ないシーンだった。

2002年9月14日公開 全国東映系
配給:東映
(2002年|1時間51分|日本)

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原作:命(柳美里)
原作:魂(柳美里)
原作:生(柳美里)
関連書籍:柳美里
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