大魔神

2002/08/04 フィルムセンター
夏と春に行なわれるフィルムセンターの「子ども映画館」で上映。
物語は黒澤の『蜘蛛巣城』なんだなぁ……。by K. Hattori

 1966年に製作された大映の異色時代劇。戦国時代の丹波の国。主君を謀殺して国を乗っ取った左馬之助は、己の私利私欲のため領民を苦役させていた。だが10年前に城を逃れた旧領主の忘れ形見も捕らえた時、山の守り神に仕える巫女が左馬之助に警告を発する。「このままでは神の呪いがあるぞ!」。だが彼はこの警告を無視して巫女を斬殺。さらに山にある神の像を破壊するよう、部下たちに命じる。像に巨大なくさびが打ち込まれると、山は地鳴りを響かせて崩れ、地割れが生じ、左馬之助の配下のものは全員が命を落とす。やがて動き始めた石像は、怒れる大魔神となって左馬之助たちを追いつめていく。

 子どもの頃から何度もテレビで見ている映画だが、大魔神の大暴れは大画面だとさすがに迫力がある。地面の底から湧き上がってくるかのような、伊福部昭の土着的で力強いリズムを持つ音楽。大魔神が必ずしも雲を突くような巨体というわけではなく、せいぜい砦の櫓を少し越える程度の高さという、微妙なスケールになっているというセンスの良さ。憤怒の形相を浮かべた緑色の顔の中で、目玉だけがギョロリと動くのも迫力を生み出している。

 今回改めて最初から最後まで通して観ると、この映画が黒澤明の『蜘蛛巣城』から強い影響を受けていることがわかる。『蜘蛛巣城』はシェイクスピアの「マクベス」を戦国時代の日本に翻案したものだが、『大魔神』のルーツはシェイクスピアではない。『蜘蛛巣城』で主人公に殺される旧領主やその遺児の立場からストーリーを作り直すと、それが『大魔神』とそっくりになる。

 主君を裏切り領主となった男。城から脱出して復讐を誓うその遺児と家臣たち。禿山の上に建てられた巨大な砦。入り込んだ者の行く手を阻む鬱蒼とした樹海。主人殺しの悪党に不気味な声で警告を発する老婆の予言。超自然現象なしには説明のできないその予言を一蹴する領主は、やがてその予言が成就したことに恐慌状態となりながら死を迎える……。こうした要素は、すべて『蜘蛛巣城』にもあったものだ。この映画を観て「話がわりときちんとできている」と感心する人は多いけれど、それは当たり前の話なのだ。

 しかしこの映画を「黒澤映画のパクリ」と言うのは的はずれ。この映画のアイデアは戦前のジュリアン・デュヴィヴィエ作品『巨人ゴーレム』を戦国時代の日本に翻案しようと言うものであり、その過程で『蜘蛛巣城』が物語の骨格として、あるいはビジュアル面での参考として持ち込まれたものだろう。映画を観ていてもその面白さは「主君殺しと遺児による復讐」にはなく、領民を苦しめる領主を懲らしめる巨人像という部分にあるのは明らかだ。

 『大魔神』のユニークさやモダンさは、中世ユダヤの伝承民話とシェイクスピアが、戦国時代の日本で出会ったところにあるのかもしれない。

2002年夏休み こども映画館
東京国立近代美術館フィルムセンター
配給:大映
(1966年|1時間24分|日本)

ホームページ:http://www.momat.go.jp/FC/fc.html

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:大魔神
サントラCD:大魔神・メモリアルBOX
関連DVD:大魔神シリーズ
関連書籍:大魔神 祕藏寫眞集
関連書籍:大魔神(筒井康隆)

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ