火星のカノン

2002/07/31 シネカノン試写室
妻子のある中年男性と付き合っている女性の、恋の痛みと苦しさ。
登場人物がみんなリアルで暖かい魅力にあふれている。by K. Hattori

 29歳の絹子は、プレイガイドで働きながらアパートでひとり暮らしをしている。恋人とは週に1度、火曜日にデートするだけだ。彼には妻と娘の待つ家庭がある。絹子はそんな恋愛関係も、他人にあれこれ言われるような素性のものではないと思っている。週に1度しか逢えなくても、恋は恋だもの。でも以前バイト先で一緒だった聖(ひじり)は、絹子の恋を「不倫」だと言う。そんな恋は「ニセモノだ」「ヨクナイです」と言う。絹子はそう言い切る聖をうっとうしく感じる。まだ本当の恋など知らないネンネが何を言うか、と思う。本当の恋ってのは、辛くて苦しいものなのよ。そんな苦しさも含めて恋なのよ。絹子にあれこれと世話を焼き、いちいち口出しする聖に、絹子はとうとう「なによ、本当の恋なんて知らないくせに!」と言ってしまう。すると聖の口から出たのは、思ってもみない意外な告白だった……。

 『冬の河童』の風間志織監督が、7年ぶりに撮った新作映画。主演は『冬の河童』にも出演していたという久野真紀子。ヒロインの恋人役に『非・バランス』の小日向文世。年下の少女・聖ちゃん役に『ファザーファッカー』『富江』『東京ゴミ女』の中村麻美。そのルームメイトの真鍋君に、『'hood』『ポルノスター』に出演していたというKEE(キー)。顔ぶれとしては、それほど華やかなものじゃない。物語も地味なのでちょうどいいけどね。

 この映画を観ていて、恋愛とは理不尽なほどに排他的な感情だと痛感させられた。喉が渇いた時、目の前にコップ半分の水があれば人は喜んでそれを飲み干すだろう。「コップになみなみと一杯でなければイヤだ」と言う人はまずいない。でも恋愛は常に「コップになみなみと一杯」でなければダメらしい。恋愛は分け合うことができない。恋愛は独占欲が強い。そして恋愛は純粋さを求める。その言葉や行いの中に少しでも「嘘」があると我慢できない。

 この映画では聖が絹子の不倫についてあれこれと批判めいたことを言う。それは世間一般で語られている、通り一遍の言葉の繰り返しでしかないのだけれど、そうした恋愛観が世の中に広く流通していることもまた確かだろう。「人は一度に複数の人を愛することはできない」とか、「不倫は相手の家族も巻き込むからよくない」とか、そんな使い古された台詞。もちろんこの映画はそうした言葉を巧みに相対化して、「不倫は悪い」という価値観を横に放り出してしまう。恋愛に社会のルールなど関係ない。でも恋愛の排他性自体は、この映画の中でしっかりと最後まで守られる。複数の人間がひとりの人間の愛を共有することは、不純なこととして退けられる。

 かなり地味な印象の映画だったのだが、エンドタイトルにRCサクセションの名曲「たとえばこんなラブソング」が流れ出すところで印象が一変。監督は'66年生まれですか。なるほど。僕も同じRC世代です。

2002年9月下旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アルゴピクチャーズ、スローラーナー
宣伝:スローラーナー、Mediaスナイパー★奥野
(2001年|2時間1分|日本)

ホームページ:http://www.so-net.ne.jp/cinet/kasei/

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関連CD:PLEASE (RCサクセション)
「たとえばこんなラブソング」収録

関連CD:EPLP (RCサクセション)
「たとえばこんなラブソング」収録

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