イン・ザ・ベッドルーム

2002/06/28 UIP試写室
最愛の息子を失った夫婦が苦しみの果てに出した結論は……。
トム・ウィルキンソンとシシー・スペイセク主演。by K. Hattori

 完璧な人生などない。人は自分の前にある人生の不完全さに気づきながらも、その欠点に目をつぶることで得られるささやかな幸福を味わっている。それが一人前の大人が持ち合わせる思慮分別であり、幸福な人生を送るための知恵というものだ。完璧さを追い求めて、物事の枝葉末節にこだわることは人を不幸にする。自分が望む人生と自分に運命づけられた人生の違いを、「生きることの面白さ」として受け入れられる人は素晴らしい。

 メイン州の小さな漁港の町カムデンで診療所を開くマット・ファウラーとその妻ルースの生活も、もちろん完璧というわけではない。一人息子のフランクは大学の夏休みに帰省しているが、年上で子持ちのバツイチ女性ナタリーと付き合っている。フランク本人は本気ではなく一夏の恋だと言い訳するが、どうやらその関係はのっぴきならないところまで進展しているようだ。母のルースはふたりにできれば別れてほしいと思っている。ナタリーは悪い人ではないし、子供たちもフランクやファウラー夫妻になついている。ただナタリーが前夫リチャードと正式には離婚していないことが気になるのだ。だがそうした心配や不安も、日常生活の中にある「完璧ではない一面」に過ぎない。片目をつぶってやりすごせば、ファウラー家の生活は平和で幸福そのものだった。だがそんな幸福は、一発の銃弾で木っ端微塵に打ち砕かれる。

 2時間11分の映画のうち、前半3分の1以上をファウラー家の平和な生活の描写にあてている。欠点や弱さを持ちながらも、基本的には善良で平和を愛する人々の生活。日常の暮らしぶりやそこから生まれる喜怒哀楽を丹念に描写しながら、映画前半は「完璧とは言えないがまずは幸福な人生」をくっきりと明快に描く。だがこの幸福は、事件をきっかけに一変する。風景は何も変わらない。人々は何も変わらない。だが世界の成り立ちそのものが、根本からすべて変わってしまうような残酷さ。カットインとフェードアウトの繰り返しが、大切なものが失われてしまったあとの虚しさと悲しさ、持って行き場のない怒りを表現する。以前と同じ日常生活に戻ろうと努力しても、いくら表面的には昔通りの生活が戻ってきても、世界はもう二度とファウラー夫妻を受け入れては紅だろう。そんな大きな苦しみが、息子を失った夫婦にのしかかる。

 映画は画面の中から暴力描写を巧妙に排除したまま終盤に入るが、最後の最後に突然、ひどく即物的で乾いた暴力シーンを映し出す。あまりにもあっけない結末。この結末のために、夫婦は苦しみ抜いたのか? いや違う。夫婦はこの後も、疎外された世界の中で苦しみ続けねばならないのだろう。

 主演はトム・ウィルキンソンとシシー・スペイセク。マリサ・トメイがナタリー役を好演。監督は新人トッド・フィールド。アンドレ・デビュースの短編小説をもとに、監督とロブ・フェスティンガーが脚本を書いた。

(原題:In The Bedroom)

2002年7月下旬公開予定 シャンテシネ他・大阪、名古屋
配給:UIP
(2001年|2時間11分|アメリカ)

ホームページ:http://www.uipjapan.com/bedroom/

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原作洋書:IN THE BED ROOM (Andre Dubus)
関連書籍:アンドレ・デビュース(原作者)
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