ギャラクシーにようこそ

2002/06/07 東京日仏学院エスパスイマージュ
横暴な亭主のもとから離れたヒロインがあるモーテルに逃げ込む。
『バグダット・カフェ』を連想させる気持ちいい映画。by K. Hattori

 夫の家庭内暴力に結婚以来18年も泣かされ続けてきた美容師のクリステルは、ある日とうとう暴力に耐えきれず着の身着のままで家を飛び出した。夫が愛人の美容師に渡すはずだったハイテク美容機器を車に乗せ、たどり着いたのは街道沿いのモーテル“ギャラクシー”だ。気性の荒いトラックの運転手や素性の知れないセールスマンたちが泊まるこのモーテルを切り盛りするのは、女性オーナーのモナだった。彼女は最初おどおどした態度のクリステルを疑わしそうな目で見るが、その窮状を知ると何かにつけて世話を焼くようになる。どこにも行くあてのないクリステルは、お産のため休みに入った女性従業員にかわってギャラクシーで働くようになった。

 監督はパトリシア・プラトネール。クリステルを演じるのは『私の男』のアヌーク・グランベール。モナを演じるのは『ママと娼婦』『なまいきシャルロット』のベルナデット・ラフォン。クリステルに好意を寄せる若いトラック運転手リュシアンを演じるのは、『素敵な歌と船はゆく』でデビューしたばかりのフィリップ・バス。物語の舞台はほぼモーテルに限定され、そこに集うさまざまな人たちの中で傷ついたヒロインが癒されていくという筋立て。モーテルという「移動のための中継地」が、ヒロインにとって「かけがえのない我が家」へと変貌していく様子が、じつに生き生きと描かれているように思う。フランス版『バグダット・カフェ』みたいな映画だが、作り手の側もそれを意図していたのかもしれない。

 この映画の醍醐味は、グランベール演じるヒロインが、夫の暴力に怯えながら暮らすいじけた女性から、自分ひとりの力で生きるバイタリティあふれる女性へと変貌していくくだりにある。彼女が同じモーテルに宿を取るキザなセールスマンと関係を持つことに引っかかりを感じる人も多いだろうが、これは彼女が自分の殻を破り、自らの意思で男性と性的な関わりを持つという大切なエピソードなのだ。彼女はギャラクシーの中で精神的に夫から独立し、次いでこのセールスマンとの関係を通して、自分自身の肉体を完全に取り戻す。このエピソードなしにリュシアンとの関係につながると、彼女が横暴な夫から離れて優しい若い男に鞍替えしただけの話になってしまう。彼女は男性からのあらゆる束縛を離れ、一度は完全に自由な身にならなければならなかった。ただしこのエピソードの描き方には、少々難点があるのも確かだろう。セールスマンがモーテルを追い出されたとき、彼女が何のリアクションも起こさないのは少し不自然に思える。このあたり、何らかのリアクションを描くとそこでまたエピソードが不要に膨らんでしまうので、あえてさらりと抜けきってしまったのかも知れないけれど……。

 ヒロインの変化をしっかり受け止めた、女主人モナの存在感も特筆に値する。ヒロインが初めてモーテルにやってきたときの彼女の表情からも、モナが単にお人好しというわけではないことがわかる。演じたラフォンも、この人物に深みを与えていると思う。

(原題:Les petites couleurs)

2002年6月22日上映予定 フランス映画祭横浜2002
配給:未定
(2000年|1時間33分|フランス)

ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/

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