レディース&ジェントルメン!!

2002/06/03 東京日仏学院エスパスイマージュ
ジェレミー・アイアンズと人気歌手パトリシア・カース主演のドラマ。
クロード・ルルーシュ監督の演出がちと弱い。by K. Hattori

 ジェレミー・アイアンズとフランスの人気歌手パトリシア・カースが主演した、クロード・ルルーシュ監督の新作映画。カースはこの作品が映画初出演だというのだが、堂々たる貫禄でとてもそうは見えない。彼女が演じているのは、ピアノバーの歌手という役。ミシェル・ルグランのオリジナル曲の他、ルルーシュの映画『男と女』のテーマ曲、シャンソンの名曲「枯葉」、「ラ・メール」などを歌っている。物語はアイアンズ演じる宝石泥棒の話と、カースが演じる歌手の話が併走し、モロッコで合流するという構成。ただし主人公ふたりは共に脳腫瘍を患っていて、時々記憶が途切れたり、白日夢を見たりする。それが物語に小さなひっかき傷のようなものを作って、観る者を幻惑させるという仕掛けだ。

 僕はルルーシュの前作『しあわせ』をとても面白い映画だと思ったのだが、今回の『レディース&ジェントルメン!!』はそれに比べると力強さに欠けると思う。複数の物語を同時進行させていくのは『愛と哀しみのボレロ』などでも取っていた手法だが、この映画には各エピソードをがっちりとまとめ上げるだけの吸引力がない。主役ふたりの話の他に、宝石泥棒の妻とヨットマンの関係、モロッコのボクサーと家族の物語、イヴァン・アタル演じるヒッチハイカーの登場などが物語に織り込まれているのだが、これらが宙ぶらりんで落ち着き場所を失っているように思えるのだ。

 ジェレミー・アイアンズ演じる宝石強盗の華麗な盗みのテクニックや、パトリシア・カースの歌唱シーンなども見せ場になるはずだが、強盗シーンにはサスペンスがないし、カースの歌唱シーンにも迫力が今ひとつ。ジェレミー・アイアンズは変装の名手という設定で、特殊メイクを使ったいろいろな扮装も見どころではあるのだけれど……。どうにも犯行手口が使い古された手法に見えるし、演出の切れが悪くて野暮ったい。

 じつはこの映画は「実話」がモデルになっているのだという。数年前に映画に登場する泥棒と同じヴァレンタインという名の男がルルーシュを訪ね、5万フランの札束を出して「10年前にあなたから盗んだお金を返します」と告白したという。彼は脳腫瘍から奇跡的に回復したとき「もし命を取りとめたら今までに盗んだものをすべて返します」と神に誓ったのだという。また別の撮影でジンバブエを訪れたルルーシュは、ホテルのピアノバーで歌う歌手からいろいろ話を聞く機会があり、それが今回の映画のヒロインのモデルになったらしい。本当か嘘かはわからない。でもちょっといい話だ。

 泥棒がお金を返して回るのはいいけれど、お金はともかくとして、彼は盗んだ宝石類を換金せずすべて手元に置いてあったのかな。だとすれば彼の盗みは仕事ではなく、一種の収集癖みたいなもの? 彼はどうやって生活費を稼いでいたんだろうか。演出にパワーがあれば、こんなことを観客が気にすることもないだろうに。結局こんな些末なことが気になるのも、映画の力不足かな。

(原題:And Now... Ladies and Gentlemen)

2002年6月23日上映予定 フランス映画祭横浜2002
日本配給:未定

(2002年|2時間13分|フランス)

ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/

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