LOVE SONGS

2002/05/30 シネカノン試写室
スクリーンに次々投影される万華鏡のような色彩の渦。
スタン・ブラッケージのハンドペイント作品集。by K. Hattori

 映画館で映画を観ていようが試写室で観ていようが、不覚にも画面に見入りながら寝込んでしまうことがある。原因は映画の内容より、観ているこちらの体調も問題が8割といったところだろう。どんなに面白い映画でも、眠るときは寝てしまうし、逆につまらない映画でも、眠らずにずっと観ていることもある。ただし「眠る映画」が、観ている者を眠りに誘う何かしらの要素を持っているのは事実かもしれない。でも「寝る映画」というのは、必ずしも「つまらない映画」とイコールの関係ではない。ましてや「寝た映画だから悪い映画」とか、「眠らずに最後まで起きていたから素晴らしい映画」なんてことはあり得ない。映画を観ていてあまりの居心地の悪さに神経が高ぶってくることもあれば、映像や音楽のあまりの美しさにうっとりと見惚れながら心地よく眠りに誘われる映画もある。こういう理屈で言えば「いい映画だから眠くなる」「映画の美しさに思わず寝てしまった」ということもあり得るのかもしれない。映画を観ている人間を思わず夢見心地にさせる映画なんて、ちょっと素敵ではなかろうか。今回観たスタン・ブラッケージの短編作品集『LOVE SONGS』はそんな素敵な映画です。

 上映されたのは全部で9作品。上映時間1分半から33分まで時間はまちまちながら、どれもフィルムに直接ペイントを施した「ハンド・ペイント」という技法で作られた作品ばかり(『コミングルド・コンテナーズ』だけは実写撮影されているらしい。)。撮影対象をレンズを通してフィルムに投射し定着させる一般の映画(ライブアクションもアニメーションも基本は同じ)と異なり、フィルム1コマずつに直接図柄を描いている。フィルムに直接絵を描くということでは、大林宣彦が少年時代に作ったというアニメ映画『マヌケ先生』と同じなのだが、ブラッケージの作品はアニメーションを指向するものでもない。画面に作られた色の渦、色のにじみ、ひっかき傷、絵の具のムラ、気泡などが、画面の中で現れては消え、消えては現れ、思い思いに舞い踊り、光を放ち、やがて闇の中に消えていく。それはまるで動く抽象画のようなもので、ここから何らかのストーリーやテーマ性を引き出そうとするのは難しいだろう。かろうじて『アーサン・エアリー』『美しき葬列』『コミングルド・コンテナーズ』『カップリング』『LOVE SONG』『LOVE SONG 2』『マイクロ・ガーデン』『コンクレサンス』『エレメンタリー・フレーズ』といった作品タイトルが、作品に込められたテーマを導くヒントになるだけだ。

 スクリーンに映し出される絵は、顕微鏡写真か万華鏡を連想させる。(フィルムという小さな断片に描かれた絵を拡大投影するのだから、顕微鏡に似るのは当然かもしれない。)音声が一切ないサイレント作品だが、映画を観ればそれに触発されて、観客の頭の中にそれぞれの音楽が聞こえてくるに違いない。僕はスティーブ・ライヒのミニマル・ミュージックを連想していた。

2002年7月13日公開予定 BOX東中野(レイト)
配給:ミストラルジャパン

(1994-2001年|1時間4分|アメリカ)

ホームページ:http://www.mistral-japan.co.jp/film/f/lovesong.html

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