メルシィ!人生

2002/05/21 メディアボックス試写室
『奇人たちの晩餐会』の監督最新作は超豪華キャストのコメディ。
会社を首になりかけた男がそれを阻止する秘策とは。by K. Hattori

 『奇人たちの晩餐会』のフランシス・ヴェベール監督最新作。前作がフランスで記録的な大ヒットとなったこともあってか、今回の映画は物語の規模のわりには豪華なキャストになっている。主演は『八日目』『橋の上の娘』のダニエル・オートゥイユ。共演に世界的なスター俳優ジェラール・ドパルデュー、『奇人たちの晩餐会』のディエリー・レルミット、『ぼくのバラ色の人生』『シリアル・ラヴァー』のミシェール・ラロック、『パリのレストラン』のミシェル・オーモン、『髪結いの亭主』のジャン・ロシュフォールなどなど……。

 主人公フランソワ・ピニョンは、20年のサラリーマン生活を目立たず堅実に送ってきた男。だが彼は会社の人員削減策で、解雇されることが決まってしまう。同僚には見向きもされず、家族にも捨てられ、失意のピニョンは自宅アパートから飛び降りようかとベランダに出る。そこで声をかけてきたのは、隣の部屋に越してきたベロンという老人だった。彼はピニョンから事情を聞くと、会社を首にならない秘策を伝授する。それは会社の中で、自分がゲイだとカミングアウトすることだった。もちろんピニョンはゲイではないが、そんな事実はどうでもよろしい。まずはコンピュータで合成したそれらしき写真を、匿名で会社に郵送する。これには会社も困り果てた。今このタイミングでピニョンを解雇すれば、ゲイに対する差別だと糾弾されかねない。会社の主要製品はコンドーム。大口顧客であるゲイたちから、差別的な会社だと思われてはたまらない。こうしてピニョンの首は無事つながるのだが、一度ゲイだと思われてしまったピニョンの周囲では、次々に新たな事件が発生する。

 馘首されるのを阻止する方法が、「ゲイだとカミングアウトすること」というアイデアがまず面白い。似たようなアイデアの映画に、大学の黒人向け奨学金を得るため黒人に成りすます白人青年を描いた『ミスター・ソウルマン』というコメディもあったっけ。こうした映画は作り方を間違えると、ひどい差別映画になりかねない。『メルシィ!人生』では「虚偽のカミングアウト」をアドバイスした老人が、「私は20年前に、君が首をつないだのと同じ理由で首になった。時代は変わったものだ」と悲しそうに語る場面がいい。また「僕にはゲイっぽい芝居なんてできない」と尻込みする主人公に、「君は今まで通り変わる必要はない。そうすれば周囲の目が変わる」とアドバイスするのも、人間の真実を射抜いた言葉だと思う。会社の同僚たちが「そういえば彼はゲイっぽい」と思い始めるシーンは滑稽だが、じつは我々も日常の中で、同じように他人を見ているのではないだろうか。あるレッテルを貼られることで、その人はなるほどそれらしい人に見えてくるものなのです。

 映画としてはちょっと弱いところもある。一番の弱点は、ドパルデュー演じる男にいまひとつ感情移入できないところかもしれない。この映画は全体にキャストが豪華すぎて、それが軽やかさの足を引っ張っているのかも。

(原題:Le Placard)

2002年夏公開予定 シネ・アミューズ
配給:メディアボックス

(上映時間:1時間24分)

ホームページ:http://www.leplacard-lefilm.com/

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