白い船

2002/05/07 メディアボックス試写室
島根県の小学校と沖を行くフェリーの交流を実話に基づき映画化。
過去から未来へと引き継がれていく人間の絆に感動。by K. Hattori

 1998年の春。島根県の小さな港町にある小学校で窓から外を見ていた生徒のひとりが、水平線近くを航行する白い船影を発見した。2日に1度、必ず同じ時間に現れるその船の正体は、新潟の直江津と九州の博多を結ぶ定期フェリー「れいんぼうらぶ」だった。先生の提案で、生徒たちはフェリーの船長に手紙を書くことにする。間もなく船長からの丁寧な返事が届き、大喜びする子供たち。手紙やファックスで小学校とフェリーの交流は続く。そんな中で「あの船に乗りたい」と子供たちが思い、「子供たちをあの船に乗せてやりたい」と教師たちが考えたのは自然なことだった。子供や教師や親たちの熱意に教育委員会も動かされ、とうとう子供たちの夢が叶う日がやってくる……。これは実話をもとにした物語だ。

 映画のモチーフは「子供たちとフェリーの交流」だが、それを通して描かれるテーマはもっと大きい。人間はひとりで生きているのではなく、大勢の人の中で生かされているというのがこの映画のテーマになっている。小さな小学校の中で育まれる、生徒や教師の交流。教師と親が一体になって子供たちを支える、理想的なPTA活動。それを支援しようとする新聞記者。こうしたさまざまな要素が、遠い海の向こうを航行する一隻のフェリーによって活性化する。さらに言えば、今この場で生きている人間を支えているのは、今現在身の回りにいる人々だけではない。我々に生命をもたらし、文化を伝えてくれた祖先や先祖の姿も、この映画では視野に入れられている。映画冒頭に登場する嵐で遭難する漁師のエピソードや、子供たちが地域の老人たちから伝えられる伝統の神楽などは、遠い過去から現代まで人々の絆がつながり合っていることの象徴なのだ。

 だがこうした共同体は、現代の日本では絶滅の危機に瀕している。舞台になっている小学校は、全学年合わせた生徒数がわずか17名。6年生の児童は1名しかいないという寂しい状態だ。子供たちは成長すれば町を出ていくだろう。どんなに自分の生まれ故郷を愛していても、海を愛していても、それだけで町に住み続けられるものではない。「子供が大きくなったら漁師を継いでくれるとは限らない」という親たちの言葉や、「私はこの町が好きだけど、結婚したら町を出るしかない」という若い女の言葉が、この町の実態でもあるのだ。だがすべてがお先真っ暗というわけでもない。小さな漁業の町の魅力を再発見して、人々がまた戻ってきてくれるかもしれない。映画は東京での生活を捨てて町で漁師を始めた男の姿を、さりげなく描くことを忘れない。

 フェリーに乗って町の沖に差し掛かった子供たちを、地域の漁師たちが大漁旗を掲げた船団で迎えるシーンは感動的だ。子供たちを成長を、地域の大人たちが見つめ、支えているという端的なメッセージ。映画のラストシーンに伝統の神楽を持ってくるのも、過去から未来へと続く人間の絆を象徴しているようだ。監督は錦織良成。角松敏生の担当した音楽も、感動を盛り上げてくれる。

2002年初夏・夏公開予定 シネ・ラ・セット他・全国ロードショー
配給:ゼアリズエンタープライズ

(上映時間:1時間48分)

ホームページ:http://www.shiroifune.com/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:白い船
画文集:白い船
サントラCD:白い船
主題歌CD:Always Be With You
参考文献:海の子の夢をのせて

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