女だけの都

2002/05/05 東京国立近代美術館フィルムセンター
1935年にジャック・フェデー監督が撮ったコミカルなコスチュームプレイ。
外国の脅威から町を守る女たちの活躍を描く。by K. Hattori

 ジャック・フェデー監督が1935年に製作したコスチューム劇。物語の舞台は17世紀初頭のフランドル地方。大国スペインの支配下で属領としてつかの間の平安を味わうボームの町に、移動中のスペイン軍が立ち寄ることになった。いつもは「町のためには命を投げ出すぞ!」と息巻く男たちも、いざスペイン軍がやってくると知ると最初から逃げ腰。スペイン軍の乱暴狼藉は恐ろしいが、町への立ち入りを拒絶すればあっという間に町は皆殺しになるだろう。かといって軍隊を町に入れれば、それはそれでどんな目に遭うかわからない。市長は対応に窮して、とうとう「急死」を装ってスペイン軍のまえに姿を現さないことに決める。町が喪中となれば、スペイン軍も町を素通りしてくれるかもしれない。なんとも臆病で消極的で、しかも無責任な態度。そんな男たちに業を煮やした市長夫人は、自らが陣頭指揮を執ってスペイン軍を迎えることになる。攻撃は最大の防御なり。とにかく徹底した接待攻勢で、スペイン軍を刺激することなく出鼻をくじく作戦だったのだが……。

 フランドル派の絵画を参考にしたという美術が素晴らしい。大小の運河が町を縦横に走るボームの町並みは、以前訪れたことのあるベルギーのブリュージュやアントワープを連想させるたたずまい。これはロケなんだろうか。それともスタジオの中に、中世フランドル地方の町並みをそっくり作ってしまったんだろうか。人々の衣装や、各種の商売、食習慣などがたっぷり盛り込まれているし、ルーベンスやブリューゲルなど代表的なフランドル派の画家も登場する。劇中で市長の娘と恋仲になるジャンという若い画家は、どうやら有名な画家一族のひとりヤン・ブリューゲル2世(1601〜78)のことらしい。これらに対応して、中世スペイン最大の画家エル・グレコが引き合いに出されるのも面白い。スペイン人の修道士に宗教裁判の話をさせているのも、「中世のスペイン=異端審問」ということだろう。こうした事柄が時代考証としてどの程度正しいのかというと、たぶんかなりいい加減なところも多いのだろう。でもこうして現代にも伝わる有名な固有名詞や事件が映画に盛り込まれることで、中世の架空の町で起きた架空の事件が、現代の我々の側にも親しいものとして感じられる。

 賢い市長夫人の機転で、町はスペイン人の手から救われる。だからといってこの映画は「強者に刃向かうのは無駄であり、徹底して媚びへつらう方が得策なのだ」と主張しているわけではない。勇ましい市長夫人や女たちはスペイン軍を歓待しながらも常に「死」を覚悟しているのであり、こうした悲愴な決意があるからこそ町は救われるのだ。これはこの物語の大前提なのだが、大前提過ぎて物語の中にはそれと観客に知らせる場面がない。結果として市長夫人の振るまいが、後先考えないお気楽さに見えてしまう面がなきにしもあらず。まぁそれを描いてしまうと、この映画の喜劇性が後退してしまうから、あえてこのような形になったのかもしれないけれど……。

(原題:LA KERMESSE HEROIQUE)

2002年4月2日〜5月26日 東京国立近代美術館フィルムセンター
NFC所蔵外国映画選集・追憶のスター女優たち

(上映時間:1時間41分)

ホームページ:http://www.momat.go.jp/FC/fc.html

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