天使にさよなら

2002/04/23 映画美学校第2試写室
ガブリエル役のビリー・コノリーと父親役のイアン・グレンがいい。
脚本は『リトル・ダンサー』のリー・ホール。by K. Hattori

 日本でもヒットした映画『リトル・ダンサー』の脚本家リー・ホールが、自身のラジオ用シナリオを映画用に脚色したファンタジードラマ。監督はウダヤン・プラサッド。最近のイギリス映画の常で、この映画も社会の慢性的な不況と、一家の主人の失業が家庭内に落とす影、その中で子供の信頼を失っていくダメ親父といった題材を扱っている。しかもこの映画ではそれに加えて、家庭内不和、学校でのイジメ、ガンで衰弱していく父親といった要素がからみ、とにかく徹底してネガティブ。とにかく暗い。おそらくこうした暗さが、不況や失業の現実なんだろうと思う。日本も不況だと言っているけれど、少なくともこの映画に出てくるような「暗さ」はを僕が身近に感じたことはない。これはなぜなんだろうか。日本人は不況を「政府が悪い」「会社が悪い」と思っているからかな……。ヨーロッパ人は個人主義だから、不況で失業するとその責務がずっしりと「個人」や「家族」の肩にのしかかってくる。それが暗さになるのかもしれない。あるいは不況の深刻さの問題だろうか。日本もあと何年かこの不況が続くと、イギリス映画のような暗い社会が生じてくるのだろうか。嫌だなぁ……。

 というわけで、物語を構成している要素だけを取り上げるとやけに暗いこの映画ですが、映画の印象はそれほど真っ暗ではない。それはタイトルからもわかるとおり、この映画の中には「天使」という超自然の存在が登場するからでしょう。主人公ジミーはウンザリする日常から抜け出して、自分も天使になりたいと願う。その願いを聞き届けるように、学校のトイレに突然現れる大天使ガブリエル。演じているビリー・コノリーは『Queen Victoria/至上の愛』に主演していた中年の大男だから、この大天使に教会のステンドグラスに登場する中性的な気品を漂わせる天使像を期待するとズッコケる。背中に天使の羽根もないし、頭の上に光る輪っかを乗せているわけでもない。見た目はまるでホームレス。それでもジミーは、このガブリエルを天使だと信じるのです。

 腕のいい溶接工だったのに、失業して家でブラブラしているしかない父親を、『トゥームレイダー』で敵役を演じ、篠田正浩監督の新作『スパイ・ゾルゲ』でゾルゲ役に決定しているイアン・グレンが好演。定職がなくても家で「父親らしい威厳」を示そうとする父を、主人公のジミーは憎む。父に代わってパートの仕事で生計を支える母も、ジミーのことになんてまったく構ってくれない。もっと親に愛されたい、親に構ってもらいたいいう子供らしい気持ちと、思春期に差し掛かろうとする少年の両親に対する反抗心が、ジミーの心の中で葛藤する。こんな親子関係を少し離れた距離からながめる、おじいさんの存在がこの人間関係を引き締める。演じているのは『キング・いず・アライブ』や『ハリー・ポッターと賢者の石』のデイヴィッド・ブラッドリー。ジミー役のショーン・アンドレスに馴染めず、映画に入り込めなかった僕も、父と子の壮絶な別れのシーンには泣いた!

(原題:GABRIEL & ME)

2002年7月公開予定 シネスイッチ銀座
配給:コムストック

(上映時間:1時間26分)

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