きれいなおかあさん

2002/04/04 ムービーテレビジョン試写室
コン・リーが聴覚障害の子を持つ母を演じたヒューマンドラマ。
生活描写の細かさが現代の中国を映し出す。by K. Hattori

 中国を代表する美人女優コン・リーが、女手ひとつで障害のある子供を育てる気丈なシングルマザーを演じたヒューマンドラマ。北京で暮らすリーインには、普通であれば小学校に入学する年の一人息子ジョン・ダーがいる。だがこの息子は、生まれたときから耳が不自由だ。補聴器を使えば周囲の音は少し聞こえるが、それでも言葉がの発声や発音がぎこちないのは否めない。母親のリーインは、なんとかしてこの子供を普通の学校に入学させて、普通の子供たちと同じように勉強をさせてやりたいと願う。耳が不自由で言葉に問題があるとしても、ジョン・ダーの知能は低くないのだ。だが最初の小学校入学試験は、残念ながら失敗に終ってしまう。リーインは自分の努力が足りなかったことを責めて、これからは息子と付きっきりで言葉を教えようと決意する。外資系の会社で管理職に推されたのを断り、条件のよかったこの会社を退職さえする。今はお金より、息子と過ごす時間の方が大切だ。なるべく息子につききりで言葉を教え、彼が世間に出ていくための道を作ってやらねばならない。リーインは新聞配達や家政婦の仕事を見つけ、息子と一緒に町中を駆け回る。そんな母子を、助けてくれる友人や知人たちも多い。まったく頼りにならないのは、今は再婚しているリーインの元夫ぐらいのものだ……。

 コン・リーの映画としては『始皇帝暗殺』に次ぐものだが、時代劇のお姫様から現代の中国に生きる肝っ玉母さんまで演じられる役柄の幅広さが、この女優の魅力だろう。しかし今回の映画は、コン・リーが主役のようでじつは主役ではない。今回の彼女の演技はすべて「受け」に回っている。能動的に物語を引っ張っていくのは、彼女が演じているヒロインの一人息子ジョン・ダーだ。この映画は彼の成長を軸に物語が語られていく。物語の導入部は、ジョン・ダーの小学校入学試験。その後も、この子が新しい言葉を覚えたり、他の子供たちと喧嘩をしたり、新聞泥棒を追いかけたり、絵を描くことを覚えたり、母親と対立したりといったエピソードを連ねていく。こうしたエピソードの数々は、すべてジョン・ダーの肉体的・精神的な成長と共にある。小学校入学は彼の肉体的な正調を示し、周囲の子供たちと喧嘩をするのは、彼の中に自我と自尊心が芽生えたことを示している。

 北京で暮らす貧しい庶民の暮らしを微視的にとらえた生活描写の数々が、我々とは言葉も考え方も暮らしぶりも違うこのヒロインを身近なものにしていると思う。貧しいヒロインの暮らしぶりと、彼女の周囲にいるそこそこレベルの生活をする現代中国人の姿の対比も効果的だ。中国の貧しさと、中国の中に誕生しつつある中産階級の暮らしぶりの対比。ジョン・ダーが描く絵はハロー・キティ、ケロケロケロッピ、ドラえもんであり、母子が食事のために訪れるのはマクドナルドだ。

 この映画は言葉とコミュニケーションのドラマでもある。父親の死を息子に理解させようとした母に、「パパは死んだ」「パパは赤い」と言い返す子供の姿が悲しい。

(原題:漂亮媽媽)

2002年初夏公開予定 シャンテシネ
配給:ムービーテレビジョン、株式会社JCP

(上映時間:1時間30分)

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