およう

2002/03/20 松竹試写室
竹久夢二と伊藤晴雨の共通のモデルとなった女性の物語。
お葉を演じた渋谷亜季はなかなかいい。by K. Hattori

 叙情の詩人画家として今も人気が衰えることない竹久夢二と、縛り絵と責め絵の大家として今も多くの熱狂的ファンを持つ伊藤晴雨。まったくタイプの違うこのふたりの画家には、なんと共通のモデルがいた。彼女の名は佐々木カネヨ。夢二のモデル「お葉」として知られている女だ。この映画はそのお葉を中心に、大正期に活躍した大衆画家・竹久夢二と、異端の画家・伊藤晴雨の奇妙な関わりを描いた作品。原作は団鬼六の「外道の群れ」。監督は高島礼子版『極道の妻たち』の関本郁夫。竹久夢二をバレエダンサーの熊川哲也が演じ、伊藤晴雨を竹中直人が演じている。お葉(カネヨ)を演じているのは、新人の渋谷亜季。画家の藤村武二を、里見浩太朗が演じている。配役はなかなかに豪華。セットや衣装などの美術も、最近の日本映画としてはかなり力が入っている。

 お葉を演じた渋谷亜季は、'76年生まれで20代半ば。お葉を演じるにしては少々トウが立ちすぎだ。しかし現実問題として、お葉を実年齢で演じられる女優など今の日本にはいそうもないから、これはこれで仕方のないことかもしれない。ちなみにお葉がモデルの仕事を始めたのは12歳ぐらい。夢二のところでモデルを始めたのが16歳で、同棲が17から23歳まで。晴雨のところにいたのはそれより前だから14,5歳か……。昔は淫行条例がなくてよかったね。渋谷亜季はお葉(カネヨ)のあどけなさや幼さを、主演デビューの初々しさでカバーしている。しかもただ幼く初々しいだけではない。出会った男を次々にとりこにするお葉の妖しい魅力が、女のエロスが、彼女の体から匂い立ってくるように感じられるシーンがいくつかあるのはスゴイことだ。

 竹中直人演じる伊藤晴雨も、責め絵の世界では誰にも負けないという画家の誇りと、異端の画家として日陰の身に甘んじざるを得ない男の悲哀と屈折を、体中からぷんぷんと漂わせていて好感が持てる。おそらくは原作者も監督も、この伊藤晴雨に共感を持ってこの映画を作っているに違いない。しかしそれとバランスを取るべき熊川哲也の夢二は、少々人物として物足りなかった。たぶんこの映画の最大の欠点は、この夢二だと思う。熊川夢二は芝居がやけに小さく縮こまっていて、天才だけに許される破格な行動に説得力がないのだ。バレエダンサーとしての彼は天才かもしれないが、芝居については素人。そんな思いが彼を萎縮させてしまっているのだろうか。

 映画の中には、夢二の常識はずれな行動がいくつも登場する。別れた女房に無理矢理浮気を告白させたくせに、その言葉に逆上して短刀で斬りつける。別れた女房と同棲を続けて子供を作り、しかも自分の女出入りの尻ぬぐいをさせたり、新しい恋人の父親のところにやって結婚の掛け合いをさせる。あげくはお葉が生んだ子供から逃げ回って、子供が死んでも家に戻らない。天才とはこうした不人情を平気でやらかし、周囲の評価を気にかけない。それが天才の狂気です。でもこの映画の夢二は、天才の狂気を演じているだけのように見えるのです。

2002年5月公開予定 全国松竹系
配給:松竹

(上映時間:1時間59分)

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原作:外道の群れ(団鬼六)
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