クィーン&ウォリアー

2002/03/18 映画美学校第2試写室
RPG風のファンタジー映画化と思いきや、じつは危うい心理サスペンス。
スペイン映画はどいつもこいつもあなどれないなぁ。by K. Hattori

 「RPGをモチーフにしたスペイン製のファンタジー映画」という紹介の仕方をされそうで、そうするとこれは『ダンジョン&ドラゴン』みたいな映画だと誤解されそうなのだが、じつはそれほど単純なものじゃない。監督・脚本はこれがデビュー作となるダニエル・モンソン。導入部は確かに安っぽい『ダンジョン&ドラゴン』風でもあるのだが、映画の半分以上は剣と魔法のヒロイックファンタジーの世界ではなく、我々が暮らしている現代の社会そのものを舞台にしている。ファンタジー映画の意匠はまとっているが、その正体は(スペイン映画なら)『オープン・ユア・アイズ』や『パズル』のような系統に属するサスペンス映画だし、より近い作品としては『ビューティフル・マインド』を例に出した方がいいと思うくらいなのだ。

 物語の主人公ベルダールは、剣と魔法の世界に生きる名うてのトレジャーハンター。恋人ソンジャと共に世界中の宝物を求めて旅をしている彼は、ある宝石を手に入れたことから邪教組織・千の目教団に呪いをかけられてしまう。それは見ず知らずの別世界に追放され、その世界の囚われ人になることだった。意識を取り戻したベルダールは、西暦2000年のスペインで、16歳の少年ラモンとして目が覚める。そこでは現実と虚構が逆転し、ベルダールの世界がRPGという形でしか存在していない。ベルダールの世界は、ゲームに熱中しすぎたラモンの見た夢でしかないのだろうか? それともラモンはこの世界に追放された、勇者ベルダールなのだろうか? ベルダールの活躍していた世界と、ラモンのいる世界の奇妙な符合。はたしてベルダールの世界とラモンの世界の、どちらが現実でどちらが夢なのか。やがて自分自身を取り戻したベルダールは、呪いを解くため千の目教団の呪術師を殺そうとするのだが……。

 虚構であるファンタジーの世界こそが現実で、我々の暮らすこの世界こそが捏造された虚構であるというアイデアは面白い。「胡蝶の夢」のバリエーションでもあるが、こうした現実と物語世界の逆転は、ミヒャエル・エンデの傑作「はてしない物語」にも通じるものだ。だがこの映画は中盤にも差し掛からないうちに、この「逆転」が少年ラモンの想像力が生みだした“妄想”でしかないことを観客にほのめかす。自分をファンタジー世界の勇者だと思いこんでいるラモンは、明らかに精神を病んだ病人なのだ。だが自分がまさに勇者ベルダールだと信じ切っているラモンは、勇者にふさわしい獅子奮迅の活躍ぶりを見せる。その真剣な眼差しが、現代社会の中で周辺部に押しやられている不幸な人々を引きつけて、「ひょっとしたらこの子の言っていることって本当かな?」と思わせてしまう。誰よりも、映画を観ている観客が「ひょっとしたら」と思い続ける。そこがミソだ。

 主人公の世界認識が妄想であることが明らかになればなるほど、逆に主人公の妄想が強固になっていくというパラドックス。映画のラストシーンはじつに痛快だ。

(原題:EL CORAZON DEL GUERRERO)

2002年5月公開予定 新宿武蔵野館(レイト)
配給:Qファクトリー 宣伝:ザナドゥー

(上映時間:1時間55分)

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