鬼が来た!

2002/03/12 徳間ホール
2000年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した中国映画。
主人公は戦争の狂気と政治の不条理に翻弄される。by K. Hattori

 監督デビュー作『太陽の少年』以来映画を作っていなかった、チアン・ウェン監督の第2作目。第二次大戦末期の中国を舞台に、小さな農村に突然押しつけられた日本兵捕虜と通訳が引き起こすドタバタを描く。チアン・ウェン監督は脚本と主演も兼務。共演は香川照之他。この映画は2000年のカンヌ映画祭で、グランプリを受賞している。上映時間2時間20分のモノクロ映画。

 物語は1945年初頭、寒い冬の深夜に始まる。近所の若い未亡人ユイアルを自分の家に引っ張り込んでお楽しみ中だったマー・ターサンは、突然家の扉を叩く音にビックリ仰天。まさか自分とユイアルの関係がばれたのか。だがそっと扉を開いてみてさらに彼は驚く。突然眉間に銃を突きつけられたからだ。相手の男に命じられるまま、ぎゅっと目をつぶったターサンは、2つの大きな麻袋を押しつけられてしまう。中にはヒゲ面の日本兵捕虜と、中国人の通訳が入っていた。いったいこのふたりをどうすべきだろう。逃がすか、日本軍に届けるか、殺して埋めてしまうか。だがふたりを連れてきた男が「荷物を受け取りに戻る」と言ったことを信じ、とりあえず村人たちはふたりを隠し通すことにする。日本兵の名は花屋小三郎。囚われの身になることは軍人としての恥辱。「殺せ!」とわめき、村人を口汚くののしる彼だったが、通訳は自分が殺されることを恐れて花屋の言葉をまともには訳さない。花屋は「村人をののしって怒らせれば、きっと殺してくれるだろう」と考え、通訳にとびきり汚い言葉を教えてもらおうとするのだが……。

 映画の前半は、中国人の村人と日本兵捕虜が通訳を介してトンチンカンなコミュニケーションを繰り広げる、取り違えの喜劇が延々続く。その面白さはまさに抱腹絶倒。花屋を演じた香川照之が本気になればなるほど、ムキになればなるほど、周囲が和んでいくのだから笑ってしまう。通訳を演じたユエン・ティンは、交換留学生として日本に来たことがあり、現在も日本と中国のテレビ局で番組演出を担当するという日中バイリンガル。映画はこれが初出演だというが、一筋縄ではいかない中国人通訳を巧みに演じていて印象に残る。これは映画の終盤に出てくる日本人通訳のつまらない芝居(もちろんそういう演出なのだが)に比べても明らかだろう。

 映画に登場する日本兵の乱暴狼藉ぶりがじつにリアル。僕は戦前に作られた『五人の斥候兵』とか『将軍と参謀と兵』などの映画を以前よく並木座で観ていたけれど、その姿は本作『鬼が来た!』に登場する日本兵たちとまさに裏表の関係だ。おそらくこの映画は、中国映画として初めてリアルな日本兵を描いた作品と言えるだろう。それだけに、映画終盤のカタストロフとすべてが終わった後のエピローグのような部分は、日本人の観客にとって口の中に砂利を突っ込まれたような味がするはずだ。

 戦争の狂気の後には、政治の不条理が待ちかまえている。主人公ターサンはそのふたつに翻弄されて、二度殺されてしまうのだ。なんとも後味の悪い映画だった。

(原題:鬼子來了)

2002年4月27日公開予定 シアター・イメージフォーラム、新宿武蔵野館3
配給:東光徳間 宣伝:樂舎

(上映時間:2時間20分)

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