ウイークエンド

2002/03/08 映画美学校第1試写室
1967年にゴダールが製作した痛快な流血コメディ(?)映画。
物語がどんどん脱線していく面白さ。by K. Hattori

 ジャン=リュック・ゴダール監督が1967年に作ったハチャメチャなコメディ映画。はたしてこれがコメディなのか少々自信がないけれど、笑えることは確かだ。登場人物やエピソードをあちこちから引用してちりばめる手法は、それをいちいち分析しようとすれば難解になるのだろうが、この映画には当時まだ30歳代だったゴダールの若々しいエネルギーが満ちている。このエネルギーが、映画に「楽しさ」や「快活さ」や「底抜けの明るさ」を与えているのだと思う。これは映画作りのテクニックを超えたところに成立する、作品のまとうオーラのようなものだ。『映画史』や『愛の世紀』など、ゴダールの近作には見られない重要な要素だと思う。

 主人公は一組の夫婦だ。ミレイユ・ダルク演じるコリンヌと、ジャン・ヤンヌ演じるロラン。ふたりは間もなく死ぬであろうコリンヌの父の遺産を、母が独占してしまわないか心配でたまらない。じつはこのふたりはそれぞれ愛人がいて、遺産を相続した後は互いに配偶者を殺してしまおうとも考えている。この導入部は犯罪スリラー映画のようでもあり、ふたりの住む部屋の下で起きるケンカの描写も含めて、これから始まる暴力的なエピソードの数々を導く呼び水のような機能を果たしている。ふたりは愛車に乗って、コリンヌの実家に向かう。その途中で駐車場のトラブルから銃をぶっ放されたり、交通事故による長い渋滞に出くわしたり、交通事故がきっかけの階級論争に出会ったり、左翼学生のゲリラ戦争に巻き込まれたり、およそ映画のスタート時点では想像もできなかったような数々の事件に出くわす。物語は「遺産相続を巡る陰謀」や「実家のある町までのドライブ」といった当初の目的を離れて、際限なく脱線していく。猛スピードで疾走する物語は、本線から脱線したまま道なき道を猛スピードで走り続ける。

 この映画に登場する、暴力と死と都市ゲリラ戦のイメージの強烈さは、映画を観る人に別の映画を連想させるはずだ。道ばたに転がる無数の死体。その前を無表情で通り過ぎる人々。路肩に転覆し炎上している自動車の数々。日常生活の中に突如出現する民兵たち。極めつけは人肉料理。それはジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』と『ゾンビ』に似ていないだろうか。この2本のゾンビ映画は、ひょっとしたらこの『ウイークエンド』という映画に影響を受けているのかもしれない。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、『ウイークエンド』の翌年製作されている。

 映画の印象は支離滅裂。いったい何がどうして、この映画がここまで激しく脱線していくのか、映画を観ていてもまったくわからない。しかしこの逸脱ぶりが、観客の脳に強い衝撃を与えることは確かだ。映画の中には時折「宇宙に彷徨った映画」というタイトルが提示されるが、この映画は観客の意識をも宇宙に彷徨わせてくれる。映画の中で物語が映画であることをバラすなど、映画の枠組みそのものを解体していくのも面白い。

(原題:WEEK-END)

2002年GW公開予定 ユーロスペース
配給:フランス映画社

(上映時間:1時間44分)

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