エネミー・ライン

2002/01/30 20世紀フォックス試写室
敵陣に墜落したパイロットが安全区域目指して必死の逃避行。
主演はオーウェン・ウィルソンとジーン・ハックマン。by K. Hattori

 血みどろの紛争から和平が実現し、平和が戻ったボスニア。周辺に展開していたNATO軍も、あと数日で引き上げが決まっていたその日に、問題の事件は起きた。アメリカの空母カール・ヴィンソンから通常の偵察任務に飛び立ったF/A-18戦闘機が、セルビア軍の地対空ミサイルで撃ち落とされてしまったのだ。セルビア軍は和平協定に違反して大部隊を集結させており、それを偵察機に目撃されたことから証拠隠滅をはかったのだ。大破する機体からからくも脱出した2名の乗員だったが、まもなく到着したセルビア人民兵たちにパイロットは射殺され、乗員のバーネット大尉は銃弾の雨をかいくぐって辛くもそこから脱出する。空母側ではバーネットからの無線連絡を受け、ただちに救出部隊を送り込むことを決定。だがアメリカ軍の軍事行動によって和平が崩れることを恐れるNATO軍の総督は、そんなアメリカ軍の行動を厳しく規制する。救出部隊を動かすことはできない。バーネットはたったひとり、追っ手の追撃を振り切って安全圏まで脱出しなければならない。身につけているのは拳銃が1挺、わずかばかりの携帯食料や水、そして無線機のみ。そんな彼を、セルビア軍大部隊が追う。

 映画に込められている政治的なメッセージが、いささか鼻につく。アメリカから見れば旧ユーゴ地域の中でセルビアは常に悪役であり、それに対していかなる弁明も許されない。NATO軍はアメリカの賢明な判断に水を差し、適切な行動の足枷となるような行動ばかり取る邪魔者であるばかりか、偽りの和平を実現するため、紛争に対しては高みの見物を決め込む事なかれ主義の腰抜けである。アメリカは本当の正義を実現するために、国際的に孤立することがあったとしても、時には軍事的な独走をする必要がある。まぁこの手の娯楽映画には、誰にでも単純にわかる善玉と悪玉が必要なのであり、そのためには主人公の属するアメリカが絶対の善、主人公を迫害する側は誰が何と言おうと絶対の悪、中立と称して結局は悪の側を利する立場を取る連中も悪の一味ということになるのだろう。それはわかるけど、こうした粗雑な単純化によって、アメリカ人がしばしば国際的な平衡感覚を失っている面もあるんじゃないだろうか。

 映画自体はそれなりに面白い。主人公の男が無敵のスーパーマンで、目の前の敵をバタバタとやっつけるというお話にはもう飽きているのです。この映画の主人公バーネット大尉は、敵地の中で孤立無援の弱い存在です。ランボーのような特殊なサバイバル技術を持っているわけでもない。敵に反撃するため、罠を仕掛けたり手製の武器を作ることもできない。とにかく走る。森を、山を、野原を、市街地を、走って走って走り抜くことで、彼は自分の命を守ろうとする。このひたすら受け身の防衛術が、むしろ我々日本人を「応援しなきゃ!」という気持ちにさせるのです。アメリカ映画だから最後に大反撃するわけですが、これは僕にしてみれば余計なもの。一種のおまけでしょう。主演はオーウェン・ウィルソン。

(原題:BEHIND ENEMY LINES)

2002年3月9日公開予定 日劇プラザ他・全国東宝洋画系
配給:20世紀フォックス

(上映時間:1時間46分)

ホームページ:http://www.foxjapan.com/movies/enemyline/

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