仄暗い水の底から

2002/01/25 日劇東宝
鈴木光司の原作を中田秀夫が映画化。『リング』コンビの最新作。
巧いんだけど、気になる点もいくつかあるぞ。by K. Hattori

 『リング』シリーズを生みだした、鈴木光司の原作と中田秀夫監督のコンビによる最新ホラー映画。夫と離婚し、幼い娘を引き取って古いマンションに引っ越してきた女性の恐怖体験を描く。主演は黒木瞳。『パラサイト・イヴ』から続いてきた「角川冬ホラー」の最新作だが、今回は2本立てではなく1本興行。しかも数社が製作に相乗りする製作委員会方式になって、「角川冬ホラー」の看板ははずれてしまった。ただし映画の冒頭には、ちゃんと角川の鳳凰マークが出る。

 映画は大技小技を駆使して、観客の神経を逆撫でしていく。映画全体を支配する「水」のイメージ。土砂降りの雨。未舗装でぬかるんだ道。天井の水漏れ。マンションの貯水槽。画面はいつも、曇り空のようなどんより濁った色に染まっている。しかしこの映画でもっとも観客の神経に障るのは、黒木瞳の神経質そうな芝居だろう。彼女は夫と別居はしているものの、子供の親権を巡って離婚調停中だ。夫は彼女の過去をあれこれとほじくり出して、彼女に子育て能力がないと言い立てる。独身時代に仕事でノイローゼ気味になり、一時精神科に通っていたことまで持ち出してくるのだ。この映画でテーマになっているのは、古いマンションに出現する少女の亡霊ではない。ヒロインにとって最大の恐怖は、我が子を何者かに奪い取られることなのだ。

 「子供を誰かに奪われるかもしれない」というヒロインの強迫観念こそが、この映画の中心になる。日常の中にあるさまざまな出来事は、すべて「子供を奪われるかも」という恐怖と結びついてヒロインを怯えさせる。夫が幼稚園の迎えに行ったのは、彼女の迎えが遅くなったからかもしれない。エレベーターのボタンの焦げ跡も、第三者の心ない悪戯かもしれない。だがヒロインにとってそれはすべて、「夫が子供を奪おうとしている」ことの傍証になってしまう。一種の被害妄想です。不動産屋や管理人の無責任な態度も、家裁の相談員の物言いも、すべてがヒロインの気に障る。こうした「日常の中の不快感」の延長に、超自然現象が置かれている。ウマイ。

 ただしこの映画、決定的に気になる点が幾つかあって、それが減点対象になってしまう。まず第1に、娘が5,6歳の幼児に見えない。子役が小学生なら、最初から子供の年齢を小学生に設定すればいい。第2に、フルタイムで働く母親が子供を「幼稚園」に預けることなどあり得ない。預けるなら「保育園」か託児所です。保育園では遅番の子供が夜の7時頃まで平気で残っているから、「子供が一人きりで親の帰りを待ち続ける」というこの物語が成立しなくなる。だからこれは、映画の作り手があえて嘘を付いているのです。でも僕は子供の迎え時間を気にする黒木瞳を見て、「保育園に預けろよ!」と思ってしまった。ここが気になると、この映画は本当に馬鹿な話なのです。オチの付け方とエピローグも釈然としない。「子供を奪われたくない」というヒロインの願いは、いったいどこに消えたのだろうか。怪訝だ。

2002年1月19日公開  日劇東宝他・全国東宝系
配給:東宝

(上映時間:1時間41分)

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