マリー・アントワネットの首飾り

2002/01/24 日本ヘラルド映画試写室
王妃マリー・アントワネットを政治的窮地に追い込んだ首飾り事件。
歴史をひっくり返したコンゲームを仕掛けた女とは? by K. Hattori

 18世紀のフランスで、王妃マリー・アントワネットの悪評を一段と高めるきっかけとなった「首飾り事件」というスキャンダルがあった。これは王妃に高価な首飾りを売りつけたいと願う宝石商と、王妃の歓心を買いたいと願う枢機卿の間で、ジャンヌ・ド・ヴァロアという女が働いた詐欺事件。王妃の側近に成りすましたジャンヌはド・ロアン枢機卿に近づくと、「王妃が密かに首飾りを手に入れたがっている。ついては代金支払いの保証人になってほしい」と申し出る。ジャンヌは王妃に瓜二つの娼婦を用意すると、宮殿の中庭で枢機卿と面会させて信用を得る。こうして宝石商から枢機卿経由で、首飾りはジャンヌの手元に転がり落ちた。だが彼女は王妃の側近でも何でもないのだから、当然ながら支払日になっても宝石商に入金はない。枢機卿はスキャンダルを恐れて、自らが首飾りの代金を支払う羽目になる。体面を気にする貴族たちの中で事件は闇から闇に葬られ、ジャンヌの犯罪は表沙汰にはならないはずだったのだが……。

 この映画は女詐欺師ジャンヌ・ド・ヴァロアを、失われた家名を取り戻すためにたったひとりで権力と戦った女闘士として描く。名門ヴァロア家に生まれた彼女は、幼くして父親を殺され、家財を没収され、母親も病死し、天涯孤独の身になってしまう。彼女を生かしているのは、「いつかヴァロア家を再興したい」という願い。身持ちの悪い貴族の妻になったのも、夫の地位を利用して宮廷に出入りするためだった。だが家名を取り戻すという彼女の願いは聞き入れられない。通常の方法で家名復興がかなわぬのなら、大金を払ってそれを買い戻すしかない。でもどうやってお金を作るのか? ここに登場するのが、高価なダイヤのネックレスというわけだ。

 詐欺師の話は映画にもしばしば取り上げられているが、詐欺事件がきっかけで数百年続いた王国が崩壊してしまうのだから、「首飾り事件」が歴史に与えた影響力は大きい。この大事件を「ひとりの女が誇りを取り戻す戦い」として描くのはアイデア賞だと思うが、アイデアがユニークだからといって、映画が面白くなるとは限らない。コンゲーム(信用詐欺)のスリルを中心に映画を組み立てていけば、この映画は『スティング』のような痛快娯楽作にもなっただろう。だがこの映画は何とも湿っぽい。涙たっぷりのメロドラマ路線だ。これではコンゲームのスリルやサスペンスも切れ味が鈍くなる。パズルのように時々刻々と変化していく犯罪ゲームの面白さより、ヒロインの感情の動きを追うセンチメンタルな映画になってしまったのは残念でならない。

 主人公ジャンヌを演じているのは、『ボーイズ・ドント・クライ』で性同一障害の女性を演じていたヒラリー・スワンク。今回は女を武器にして貴族社会をのし上がっていくという役柄で、この女優の演技と素質の幅広さを示す作品になっていると思う。監督は『赤ちゃんはトップレディがお好き』『花嫁のパパ』などの作品で知られるチャールズ・シャイア。

(原題:Affair of the Necklace)

2002年2月下旬公開予定 日比谷映画他・全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画

(上映時間:1時間58分)

ホームページ:http://www.necklace.jp/

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