カタクリ家の幸福

2002/01/24 松竹試写室
人の寄りつかないペンション経営に命をかける一家の奮闘記。
韓国映画『クワイエットファミリー』をミュージカル化。by K. Hattori

 韓国映画『クワイエットファミリー』を大胆に翻案した、三池崇史監督の新作映画。人里離れた山の中に、何を間違ったのかペンションを建ててしまった一家の物語だ。幹線道路からも遠く離れ、観光名所があるわけでなし、ペンションにはお客がまったく寄りつかない。やがてようやく訪れた客はその日のうちに自殺。これが大っぴらになれば、ペンションは悪評が立って二度と客が来てくれなくなってしまうだろう。経営者一家は客の死体を黙って埋めてしまう。やがてもう一組の客が来るが、それも宿泊中に変死。一家はそれも埋めてしまう。こうした話の流れは、オリジナル版の『クワイエットファミリー』と同じ。しかし違うのは、この映画がミュージカル仕立てになっていることだ。

 出演者も豪華。カタクリ家の主人マサオを演じるのは、数々のヒット曲を出した実績を持つ大スター沢田研二。その妻テルエを演じるのは、大ヒット曲「愛の水中花」を歌っていたこともある松坂慶子。素行不良な長男マサユキを演じるのは、ミュージシャンとしても活動している武田真治。出戻りの長女シズエ役は、『ひみつの花園』の西田尚美。祖父ニヘイに大御所・丹波哲郎。怪しい結婚詐欺師・リチャード佐川を演じるのが、カリスマ・ロック・ミュージシャンの忌野清志郎。三池監督作品常連の遠藤憲、竹中直人、映画評論家の塩田時敏なども顔を出している。この人たちが、全員歌って踊る様子は、それだけでも奇怪でありシュールな笑いを誘う。

 この映画の魅力は、徹底した「作り事」の面白さだろう。物語が突然ミュージカルになるという場面転換は、この映画が「作り事」であることを観客に強く意識させるし、映画と人形アニメが無理矢理つながっていく強引さも、この映画の現実離れした雰囲気を強調する。しかしこの映画、こうした「作り事」を大真面目に作り込んでいる。ミュージカルシーンはミュージカル映画の伝統に沿った形で展開し、1曲歌って恋が生まれ、1曲歌って仲直り、1曲歌って問題解決という万能薬としての効果をフルに発揮。人形アニメもグロテスクとユーモアを交えた抜群の効果を生みだし、大アクションシーンやスペクタクルシーンを笑いで包み込む。(人形アニメの制作はキムラヒデキが担当している。)

 話はあらかじめ知っているし、話自体が特別面白いとは僕は思わない。そもそも『クワイエットファミリー』だって面白くないのだ。だがこの映画はサービス過剰な演出を次々に観客の眼前に展開することで、是が非でも観客を楽しませ笑わせてしまおうという熱気にあふれている。丹波哲郎が歌い、ゾンビが踊り、清志郎が空を飛ぶ様子を見ているだけで、知らず知らずのうちに観ている側の顔がほころびてきてしまうのはなぜでしょう。この映画を何かに例えるなら、それは駄菓子屋の店先だ。安っぽさと懐かしさと毒々しさとまがい物の魅力。人工甘味料や香料で味覚と嗅覚が麻痺し、人工着色料で舌が紫色や緑色に染まるような怪しさを持っている。

2002年2月23日公開予定 
シネ・リーブル池袋、シアター・イメージフォーラム、新宿ピカデリー4
配給:松竹
 宣伝:松竹、ザナドゥー、オムロ
(上映時間:1時間53分)

ホームページ:http://www.katakurike.com/

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