陽だまりのグラウンド

2002/01/23 映画美学校第2試写室
キアヌ・リーブス演じるダメ男が少年野球チームをコーチする。
定番の映画といえばそれまで。でも泣ける。by K. Hattori

 ギャンブル狂のコナー・オニールは、ここのところまったくツキから見放されている。ギャンブルの借金をギャンブルで清算しようと、積もり積もった借金は総額1万1千ドル。借金取りの姿にビクビクしながら暮らすのも楽じゃない。証券会社の重役をしている幼馴染みのジミーに借金を申し込んだところ、彼からの返事は「週給500ドルで地元少年野球チームのコーチをしろ」というものだった。当座必要な現金が喉から手が出るほど欲しいコナーは、この申し出に飛びつく。ところがあてがわれた野球チームはいろいろと問題があって……。

 キアヌ・リーブス主演のスポーツ映画。私生活のトラブルから青少年の教育係を命じられる主人公を描く映画は、今までに何本も作られている。人間的に問題のあるコーチが、駄目チームをあてがわれて勝ち上がっていくという映画も何本も作られている。この映画もそうした定番のメニューではあるのだが、中心になるテーマは信頼や友情といったスポーツ映画の伝統から離れ、現代の子供たちがいかに厳しい現実にさらされているかという社会環境問題になっているように思う。原題の『HARDBALL』とは野球で使う硬球のことだが、同時にこの映画に登場する子供たちが直面する、さまざまな辛く厳しい現実のことを示してもいるのだろう。治安の悪いスラムで日々生命の危険を感じながら暮らす子供たちにとって、グラウンドで野球を楽しむことがいかに楽しいことなのか。野球は単に勝ち負けを競うゲームじゃない。それは少年たちにとって、つかの間の安らぎであり、心癒される唯一といってもいい時間なのだ。主人公のコナーは、少年たちとの交流を通してそれを学ぶ。

 嫌々コーチに就任した主人公が、どこかで心を入れ替えて本気になるという展開はこの手の映画のお決まりパターン。この映画はそのきっかけが弱い。具体的に何らかの事件があって、それが外圧となって主人公を変えていくのではなく、主人公内部から湧き上がってくる葛藤が、とうとう主人公の行動を変えさせるという流れになっている。このターニングポイントに至るまでの主人公の心の揺れを、もう少し映画の中で丁寧に描いてくれるとよかったと思う。もっともこの映画の中で、主人公の変身は大きなクライマックスではない。主人公の変身は全体の折り返し地点なのだ。コーチを続けることを決意した主人公が、子供たちを野球場に連れて行く場面は感動的だ。子供たちがサミー・ソーサを見つけて大騒ぎする場面は、観ている側まで思わず興奮してくる。

 映画はこの後、子供たちが暮らす厳しい環境を象徴するような悲しいエピソードを描く。主人公がコーチに身を入れたからといって、チームが調子よく勝ちだしたからといって、子供たちを取り巻く環境が改善するわけではない。子供たちは厳しい現実の中で、生き続けていくしかない。では野球は無力なのか? 子供たちにとって野球は単なる現実逃避なのか? 断じて違う。野球はやっぱり子供たちを救う。そう宣言して映画は終わる。

(原題:HARDBALL)

2002年GW公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス、松竹
 宣伝:オメガ・エンタテインメント
(上映時間:1時間46分)

ホームページ:http://www.hidamari-ground.com/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ