《上海アニメーションの奇跡》
Bプログラム

2002/01/22 徳間ホール
上海にある中国の国立アニメスタジオで製作された傑作2本。
「封神演義」原作の『ナーザの大暴れ』は傑作。by K. Hattori

 中国の国立アニメーションスタジオ「上海美術電影製片厰(上海美術映画製作所)」が製作した作品7本を特集した《上海アニメーションの奇跡》のBプログラムは、'79年製作の『ナーザの大暴れ』と、'88年に製作された人形アニメ『不射之射』の2本。以下簡単に、この2作の内容と感想をコメントしておく。

 『ナーザの大暴れ』は中国明代の古典神話「封神演義」の一挿話を題材にした、59分のセルアニメーション作品。将軍の息子としてこの世に生を受けたナーザは、生まれながらに不思議な力を持つ少年だった。仙人に弟子入りして羽衣と金の輪を授かったナーザは、ある日海辺で竜王にさらわれそうになった子供を助けたことから、竜王たちと戦うことになる。とにかく最初から最後まで、アクションに次ぐアクション。京劇風の音楽と振り付けで、流れるように次々と活劇シーンが展開する。この映画を観ると、アニメーションとはまず何よりも「動き」だという基本を嫌でも思い出す。キャラクターの魅力も、お話の面白さも、すべては「動き」の中から生まれる。

 物語は単純な勧善懲悪だが、主人公のナーザが生まれながらにして父親に疎まれていたという設定など、ちょっと残酷な部分も持っている。生まれながらにして父親に殺されかけたナーザは、竜王と対立したときも父親の支援を得られない。ナーザは父親の目の前で、父親の剣を手にとって自ら命を絶つ。可愛そうなナーザ。彼はただ臆病な父親に代わって、海辺でさらわれそうになっていた小さな子供を助けようとしただけなのに。 ナーザが剣を首筋にあててくるりと背を向けると、剣を伝って一条の血がしたたり落ちる……。この振り付けも含め、京劇風の演出が随所に見られ、それが荒唐無稽な大アクションシーンを大いに盛り上げる。

 『不射之射』の原作は中島敦が中国古典「列子」をもとに書いた短編小説「名人伝」。天下一の弓の名手を目指す男が一通りの武芸を身につけた後、仙人のような暮らしをする男から「不射之射」を習って山を下りてくるという話。「至為は為す無く、至言は言を去り、至射は射ることなし」というのが、山を下りた男の言葉。主人公の男はついに弓を取らない大名人になった。『不射之射』はこれを川本喜八郎が脚色・監督し、ユーモアの漂う人形アニメにした。日本語版のナレーションは橋爪功。

 原作の魅力は漢文読み下しの硬質な日本語にあるのだが、それをことごとくアニメで絵解きし、こなれた日本語に訳してしまうことで、原作の持つシャープな印象はずいぶんと薄れてしまったと思う。原作は言葉の中に難解で意味不明な漢語がゴロゴロと紛れ込んでいて、それが何とも言えない味わいになっているのだけれど、アニメ版はそうしたゴロゴロした部分がすべて無くなっているのだ。日本語ナレーションの台本を、もっと原作に沿ったものにするだけでも印象がずいぶんと違うと思う。話自体がかなり面白いので、原作を知らなければこうした不満は持たないだろうけれど……。

2002年3月公開予定 ユーロスペース
配給:東光徳間

(上映時間:計1時間23分)

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