暗い日曜日

2002/01/09 GAGA試写室
聴く者を死に追いやる呪われた名曲「暗い日曜日」の誕生秘話。
戦争に翻弄されるハンガリーの悲劇を描く。by K. Hattori

 読んだ人が次々自殺してしまった小説として有名なのは、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」だが、聴いた人が次々に自殺してしまった音楽として有名なのが、ハンガリーで生まれたシャンソン「暗い日曜日」だ。もちろんこの曲を聴いた人が全員自殺するわけではないけれど、この曲を聴いて自殺した人が何百人もいるのは事実らしい。この曲は聴く者に厭世観を抱かせるという理由で、しばしば放送禁止や発売禁止の処分を受けている。この映画はそんな呪われた曲をモチーフにした「名曲誕生秘話」の物語。ただし実話をそのまま映画化したわけではなく、「暗い日曜日」とそれにまつわる伝説をもとに、かなり自由に物語の発想を広げている。映画が実話からそのまま取り込んだのは、この曲がブダペストのレストランで第二次大戦前に誕生し、第二次大戦直前に世界中で大ヒットしたこと、この曲の周辺で多くの自殺者が出たとされていること、さらに作曲者本人も自殺したことなどだ。原作はニック・バルコウの小説。監督・脚本はドキュメンタリー出身のロルフ・シューベル。

 1930年代末のブダペストに、サボーというレストランがオープンする。支配人兼オーナーはユダヤ人のラズロ・サボー。恋人イロナも経営のパートナーとして彼を支える。ふたりが店のオープンにあわせて雇い入れたのが、若いピアニストのアンドラーシュだった。イロナとアンドラーシュは互いに惹かれ合う。やがてアンドラーシュはイロナに「暗い日曜日」という曲を捧げ、ふたりは結ばれることになる。これはサボーも含めた三角関係の始まりでもあった。間もなく「暗い日曜日」は店を訪れたレコード会社の重役に認められて世界的な大ヒットとなる。3人の関係は幾度かの危機を乗り越えて危ういバランスを保っている。だがそれを根底から覆したのが、第二次大戦の勃発とドイツのハンガリー進駐だった。ラズロはかつて店の常連客で、今はナチスの将校になっている男とのコネを使って、何とか店の営業を続けていこうとするのだが……。

 物語はヒロインのイロナを中心とするラズロとアンドラーシュの三角関係が中心になる。ふたりの男がひとりの女の愛情を共有するという話は先日観た『バンディッツ』を連想させるが、この映画ではイロナをある種の聖女として描き出そうとしているようだ。彼女はアンドラーシュにとって芸術の守護者であり、ラズロにとっては店を守る天使でもある。ピクニックに行った草むらで、ラズロとアンドラーシュがイロナの両腕に抱かれて寝そべる場面は、聖母マリアが両腕の下に多くの聖人を抱え込む宗教画と同じような構図になっている。

 この三角関係が物語の縦糸だとすれば、横糸になるのは第二次大戦中のドイツによるハンガリーの蹂躙だ。旧友のドイツ人将校ヴィークが、権力を笠に着て限りなく下劣で卑しい男になっていく姿がリアルに描き出される。なかなか見応えのあるドラマだが、最後のオチは痛快ながらもやや通俗的過ぎたかもしれない。

(原題:Gloomy Sunday - Ein Lied von Liebe und Tod)

2002年陽春公開予定 シャンテ・シネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、楽舎

(上映時間:1時間55分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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