コンセント

2001/12/26 メディアボックス試写室
田口ランディの同名小説を中原俊監督が映画化。
カリスマ・ヒロインを市川美和子が好演。by K. Hattori

 ネットが生んだカリスマ作家、田口ランディの同名小説を、『櫻の園』『12人の優しい日本人』の中原俊監督が映画化した作品。物語は主人公・朝倉ユキの兄が、腐乱した変死体で発見されたところから始まる。死因は栄養失調による衰弱死。もっと簡単な言葉に置き換えれば「餓死」だ。事件性はないが、かといって自殺というわけでもない。心の病を抱えたままひとり暮らしをしていた男が、アパートの一室で人知れず孤独な死を迎えたのだから、これは一種の病死と言うことができるかもしれない。だがユキは部屋の中にコンセントにつないだままの新品の掃除機を見つけ、それが兄から自分に向けてのメッセージであるかのように感じる。その直後から、ユキは亡霊のような兄の幻影と、自分だけに嗅ぐことができる死臭に悩まされることになる。学生時代に心理学を学んでいたユキは、幻覚と幻臭が精神分裂病の典型的な初期症状であることを知っている。自分はこのまま、兄と同じように狂ってしまうのだろうか?

 主人公ユキを演じているのは『アナザヘブン』の市川美和子。酔っぱらうと誰彼かまわずセックスしたくなってしまうというヒロインを、かなり激しいセックスシーンごと体当たりで演じている。正直言って、この若い女優がここまでやるとは思わなかった。この人は「個性的な美女」とでも表現するしかない顔立ちで、演技も取りたてて上手いとは思えないのだが、今回はそんな彼女の個性が映画の中で生きていたと思う。彼女のぶっきらぼうな台詞回し(要するに下手くそなのだ)が、周囲の人間関係に常に防波堤を作っているような彼女のキャラクターを作り出しているし、周囲の芸達者な役者たちに比べて明らかに異質な彼女の芝居(つまりは芝居が極端にぎこちないのだ)は、人間ばなれした存在へと進化していく彼女の特異性を際だたせる複線になる。正統派の美女系列から離れたその容貌も、不思議な魅力で周囲の人々を引きつけるというキャラクターに説得力を持たせている。これが万人に認められる美女だと、ユキという役柄の不思議さが別のものになってしまうと思う。

 映画は評価が割れると思う。特に「解体」移行の展開について、これに納得する人としない人、受け入れる人と受け入れられない人に分かれると思うのだ。僕は「解体」以前の映画を猛烈に面白いと感じつつ、「解体」移行のユキのキャラクターには面白味を感じられなかった。「解体」以前の物語は、謎めいた出来事と先の見えない未来予測の間でヒロインが揺れ動く。兄の死の理由を探るミステリー。自分が正常なのか、狂いつつあるのかわからないという不安。男性関係を巡る不安定な行動。兄の死によって再浮上する家族の危機……。それまで安定していたヒロインの生活は兄の死によって足下からぐらつき、ヒロインもまた荒波に飲み込まれそうになる。そのスリルが「解体」以前の映画を面白くしている。ところが「解体」以降は、物語が単線になってしまうのだ。僕はこれを、尻すぼみな結末のように感じる。

2002年2月上旬公開予定 テアトル新宿・以降全国順次公開
配給:オフィス・シロウズ、メディアボックス 問い合せ:メディアボックス

(上映時間:1時間53分)

ホームページ:http://www.shirous.com/concent/

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